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2023年11月03日20:25

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♪きっと今ではお前も 後悔をしてるだろう

 10月30日月曜日。
 午後イチ、私より7つ上のフリー編集者と戸塚駅近くのカフェで会う。かれこれ1年半ぶりだ。以前は年に3〜4回親しく会話を交わしていたのだが、がんの化学療法による副作用が段々と彼の身体を蝕んで要介護認定3の身となり、認定を受けた頃は常時酸素マスクを装着していたり、排泄も自分では出来ないほどに苦しんでいた。しかし、あまりの衰弱からしばらく化学療法を中断しているうち、徐々に体力は回復して、彼のほうから「会おう!」と誘われた。
 会って数分もしないうち、奇跡を見た気になった。元気そうな表情が戻り、私より軽やかに歩き、不安を抱えた病人というにはほど遠い。本人自身、普通に生活を営める状態になったと笑顔を見せ、「横浜に越してきて8年を迎えた。出来ることなら妻の実家がある静岡の、海から近いところへ引っ越したいな」などと将来の夢を語る。この未来マップを聞いていて、私よりも前向きじゃないか、と感じ入った。彼が微笑むたび、嬉しくなって、あっと言う間に2時間が経っていた。

 10月31日火曜日。
 東京・用賀にあるガス暖炉のショールームへクルマを駆って訪ねた。とうとうリビングのガス暖炉が壞れ、既に数年前から交換部品もなくなったものだから騙し騙し使っていたのだが、それも限界が来た。
 ガスストーブであれば数万円から5万円を出せたいくらでも買えるが、ガス暖炉は60万〜100万円のある意味贅沢品で、最新の暖炉を前にひどく迷う。
 即断できない、というか、夏が終わった頃から頭の片隅でずっとどうしようかな、と悩んでいる。

 11月1日水曜日。
 季節は秋も半ばを過ぎたのに暖かい。ガス暖炉がなくてもエアコンを少しオンにするだけで十分だ、とてもありがたい。決断を先延ばしできる。
 図書館へ行って、本を返却。うち一冊は千早茜の『ひきなみ』で、とっくに読了しているのにもかかわらず、別れがたい気持ちがあって、返却日ぎりぎりまで手許に置いていた。決して純文学の王道的な作品ではないにもかかわらず、これほどブンガクブンガクしている作品は珍しい。途中、幾度も登場人物に肩入れし過ぎて、息苦しくなった。先週、ブックオフでとりあえず千早茜の別の本を見つけたのでとりあえず買ったのだが、少し間を空けてから読みたい。それほどに彼女の作風は読み手の感情を巧みに揺さぶる訴求がある、ということだ。
 図書館で返却を終えたあと、30分ほど「本の雑誌」を読み、リサイクルコーナーにあった雑誌「サライ」をいただいて帰宅。巻頭インタビューに池波志乃が出ていて、ご夫妻の断捨離や読書生活の話が面白かった。今でも街で夫婦が待ち合わせる場合は書店とのこと。何年か前、池波さんが夫中尾彬を大事に思って料理をつくった際には手書きのメニューを必ず添えるということを聞いて感動したものだが、賢女というのはこういう女性を指す。もはや差別用語になったが、男前だ!

 11月2日木曜日。
 夜、ニュースで横浜・若葉町での殺人事件を知った。犯人はタイ料理屋のタイ人コック53歳とのこと。
 若葉町は横浜のダウンタウンで、アブナイ繁華街だとされている。実際のところはフーゾク店があったり、アジア各国の料理店が並んでいたり、映画館「ジャックアンドベティ」やライブハウスがあったりして、横浜らしい街だ。学生時代から好んでこの一郭をほっつき歩いていた。
 ときどきあることだが、不意にフィリピンのシンガーソングライターの曲で日本では杉田二郎が歌ってヒットした「アナック(息子)」のメロディと歌詞が頭の中に甦ってくる。かつて可愛かった男の子が成長するにつれてワルになっていく姿を親が悲しむ歌で、53歳のタイ人が母国から遠い日本の横浜という街で人を殺めちゃった、事情は全然わからないのに、こんないい歳をしてひとを包丁で刺してしまったの? 家族や親戚が泣くよ、というような同情を寄せてしまったのだ。

お前が生まれた時
父さん母さんたちは
どんなによろこんだ事だろう
私たちだけを
頼りにしている寝顔のいじらしさ
ひと晩中
母さんはミルクをあたためたものさ
昼間は父さんが
あきもせずあやしてた
お前は大きくなり
自由がほしいと言う
私達はとまどうばかり
日に日に気むずかしく
変わってゆくお前は
話を聞いてもくれない
親の心配見むきもせず
お前は出てゆく
あの時のお前を止めることは
誰にも出来なかった
息子よ お前は今
悪の道へ走り
荒んだ暮しをしてると聞いた
息子よ お前に何が
あったのだろうか
母さんはただ泣いている
きっとお前の目にも
涙があふれているだろう
きっと今ではお前も
後悔をしてるだろう
きっとお前の目にも
涙があふれているだろう
きっとお前の目にも
涙があふれているだろう
 
 私はワルの道を歩んでいないし、荒んだ生活をしているワケでもない。悔いある人生を送っているとも言いがたい。が、しかし、なんか思いっきりひとの道から外れて人生の転落を繰り返していて、天に眠る親はさぞや悲しんでいるだろう、というドラマを自作自演して、しょげかえることがたまにある。自民や維新に所属する議員とは真逆で、内省力が強いゆえに自身の欺瞞性だとか脆弱さだとかに目が行って、お詫びのしようもない、と思ったりするのである。
 杉田二郎の「アナック」を昨夜聞きながら、泣きはしないけれど、しみじみと我が身を振り返ったのだった。



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