朝7時ちょうどにiPhoneの着信音が鳴った。高松の友人からだ。
「いま、空港に向かっているんだけど、熱があるんだ、37度2分。このまま(クルマを運転して)空港へ行くけど、東京行きは無理かも知れない」
15分後、ふたたび電話があった。
「空港の駐車場から電話をしている。体温は37度5分に上がった」
飛行機に搭乗するのはやめておいたほうがいい。
「そだな、コロナと間違われるしな」
友人はスイマーの池江璃花子と同じ骨髄性白血病で、現在も化学治療を受けている。熱は副作用なのかもしれない。
断腸の思いだろう。ひとり旅しかしない主義の私が一緒に旅した数少ない友人である。電話を切って、あの宿に泊まったな、あの博物館に行ったな、などと彼との過去を振り返ってせつなくなった。まあ死んだわけではないので、これからも会えるしなんなら一緒に旅の宿に泊まることだって出来る。私が高松に飛んでもいいんだし。
午前10時、浴室でラズリを洗うことにした。夏前に洗ったきり本格的なシャンプーはしていなかったので、体毛にフケが少々出るようになってしまった。
浴槽の湯に手を入れると30度弱ってところだ。少し沸かして38度くらいになったところで、ラズリを浴槽に浸ける。手のひらにシャンプーを落としてラズリの背や腹を手で洗う。20分くらい掛けて全身を洗いあげ、浴槽から持ち上げて洗い場へ置くのだが、あまりの重さで尻餅をついてしまった。ラズリびっくり、俺だってびっくり。幸い両者とも怪我がなくてよかった。そもそも20キロ超の体重で、さらに全身で湯を纏っているため、30キロ以上ある。マジ重てえ。
シャワーで何度もすすいだあと、バスタオルで何度も拭いて、ようやくラズリを解放した。たいへんなのは浴室と浴槽の事後処理で、バスマジックリンで入念に洗わないといけない。なので、ここまですべてやるとゆうに1時間を超えた。
で、今度はブラッシングが待っている。でかい犬を全身ブラッシングするのも時間と手間を要する。結局、正午近くまで作業が続いた。
午後1時、友人との会食で選んだフレンチレストランには妻と行った。
吹き抜けのある一軒家の隠れ家レストラン、窓の外は小雨が降ったりやんだりで、いかにも鎌倉でございます、という雰囲気。前菜が出て来た。こぢんまりとした色とりどりの抽象画で、フォークを入れるのがもったいない気がする。まさかこの皿を写真に撮って友人に送りつけるのは反則技だ、と思いつつも、ついiPhoneを手にしてしまった。
私と違って真面目で律儀な男だ。互いの病気のこと、これからの希望、そして死について、この場所で和やかな会話を交わしたかったな。
シェフが料理を運んで来てくれると、少しの間、話をした。私は注文しなかったが、銀杏を使ったスープを出しているそうだ。
「今度よかったら銀杏をお持ちしましょうか」とシェフに言うと、イエスともノーとも言わなかったが、帰宅したら少し銀杏を拾い、もし雨が降っていなかったら皮むきまでやってみるか。
うちに帰ってラズリと少し散歩。雨は降っていなかった。
15分くらいかけて銀杏を拾う。そして、山に行って銀杏を剝いた。
結構たくさんの量になった。
お寺にお礼返しという意味合いで、境内に散乱していた枯れ枝を拾って山へ捨てに行き、それを終えると竹ぼうきでお堂を掃いた。友人の病がよくなりますように。私も少し健康になりますように。
明日明後日と台風の影響で雨らしい。出来れば銀杏を日光に当てて乾かしたいのだが、無理そうだな。
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