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2018年12月21日21:47

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久しぶりの池上線

 本日は、勤務先の元上司(77歳)とサッカーライター(47歳)と私の3人ランチ会で新宿へ。待ち合わせは相も変わらず紀伊国屋書店本店だ。
 ずっと続けてきたランチ会だったが、ここ2年、元上司の体調悪化で果たせなかった。今回も上司は体調万全とは言えなかったのだが、私を相手にするとなぜだか元気が出るそう(苦笑)、召集の号令がかかった。
 話は弾んだ。会社にいるときも辞めたあとも一貫して欲のないおまえは純粋でいいよ、などと、貶めているのか褒めているのかわからないようなことを繰り返し言われた。退社後にまだつきあいのあるのは私だけだそうだから、私が「ちょうどいい馬鹿」なのだろう。
 午後3時半に解散。上司とJR新宿駅の改札口まで一緒にゆるゆると歩いて、別れた。
「来年、再来年もまたランチしようね。80歳で死んでいいから」と言ったら、「ありがとう、あと3年生きる目標で頑張るよ」と。
 山手線で五反田駅へ。東急池上線に乗り替えた。池上線に乗るのは何年ぶりだろう。かつて西五反田のマンションに住んでいたことがあった。JR五反田駅から歩いて15分、池上線戸越銀座からだと徒歩10分ほど。古くからのオフィスビル街の外れにある古いマンションで、最上階の10階を借りていたものだから眼下に首都高速が見えた。あたり一帯は生活臭がないために無機的で、猥雑さが苦手な私にはぴったりの住まいだった。
 池上線の某駅で降りる。先生にケーキを送る目的だ。注文販売をしない頑固な洋菓子店を(やむなく)訪ねた。創業は東京五輪開催年ということだから、54年になる。私が生きてきたなかでいちばんのケーキ。先生のお口に合おうと合うまいと、どうでもいい。ただの自己満足だ。
 電車の中では平凡社新書『作家のごちそう帖』を読んでいた。鴎外、漱石、熊楠、荷風から三島由紀夫や開高健らの有名作家22人はどんな食事をしていたかをかいつまんで紹介する内容だ。
 某駅に着く寸前は、谷崎潤一郎の項を読んでいた。官能的な作家は官能的な美食家でもあった。京都の茶屋では「一力」が贔屓で、旬の鱧(はも)を好み、ある日の献立は「向付が白身魚(鮃)、焼き物は鰻に見立てた野菜の蒲焼き、吸い物は車海老と白身魚と椎茸とほうれんそうを入れた大ぶりの椀……」などと紹介したら、そんな話はどうでもいい、みたいになってしまうが、それぞれの作家の嗜好を通して作家像に迫るというのは面白い。谷崎はちょっと癇癪持ちのようなところがあって、食事は毎日同じ時間で少しでも始まりが遅れただけで怒り心頭になる。食事の作法にも厳しく、「おつゆを音をたてて飲んだり、くちゃくちゃと音をさせたり、移り箸をしたりといったことはひどく嫌った」そうだ。なんか私の父みたいだ(笑)。うちは両親ともしつけが異様に厳しくて、茶碗や箸の持ち方はもとより、おせちの入った重箱の上で迷い箸でもしようものならそこで私の食事は中止にさせられた。関東では蕎麦をすするのが作法らしいが、うちはうどんでさえすすってはいけないという決まり事だった。これはわが家だけのローカルルールだろうか。しかし長じて、音をたてないようにという作法は特殊でないこともわかった。フランスやドイツなどは日本よりもさらに厳しいようだ。かつて付き合いのあったドイツ人の友だちからそう聞いて、確かに彼は品良く食べていたのだった。
 有名作家が贔屓にしたレストランや和菓子屋はここ、と後年調べられて本にまとめられるのはやむを得ないが、有名無名を問わず行きつけの店名を挙げて通ぶるというのは下品だと思う。食通の池波正太郎が贔屓にした蕎麦屋に行くのはいいし、それをSNSにアップするのもいい。だけど、それは偉大な小説家を訪ねるのがいい趣味なのであって、その蕎麦を食べたからって偉くもなんともない。
 自分が真に好きな店はそっと隠しておくべきである。
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