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2018年12月04日21:34

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鎌倉の噂

 今朝、ベッドから起き出そうとしたところでiPhoneに着信があった。それは「防災鎌倉」の速報メールだった。
「デマにご注意ください」という件名だった。
<鎌倉市内に女性の妖怪が出没しているというデマが流れています。「松ぼっくりが落ちている場所を知りませんか」、といきなり尋ねて、「知りません」と答えると、その人の頬を張って消えるという話です。が、鎌倉署と市役所で調査した結果、松ぼっくり女に被害を受けた市民と観光客がいないことがわかりましたので、お知らせします>
 このメールで完全に目が覚めた。なぜなら、私は一昨日の日曜日、松ぼっくり女に会っているからだ。
 場所は江ノ電長谷駅と極楽寺駅の中間あたりだ。
 小泉今日子・中井貴一主演のテレビドラマ「最後から二番目の恋」で、彼らが住んでいた古屋があるるエリアで、ドラマに何度も出た御霊神社のすぐ近く、通称星の井通りで、「ちょっとお聞きしますが、この辺りで松ぼっくりはありませんか?」と訊かれた。大仏様に行きたい、「力餅屋」(鎌倉三銘菓のひとつ)はどちら? といった質問ならすぐに答えられるが、松ぼっくりのある場所を問われるとは、と驚いたのでその女性の顔をまじまじと見た。上手い喩えが見つからないのだが、もし美人占い師が鎌倉にいるとすればそれは彼女をおいて他にいない、というような近づきがたいほどの高貴さのある女性だった。年齢不詳、というか、私は恥ずかしがり屋なので見た瞬間、目を伏せたので、ディテールは説明できない。
「残念ながら松ぼっくりがある場所は知りません」と答えたら、「ありがとうございました」と言ってその場から去って行った。鎌倉で流布している噂とは違って、ぱっと消えはしなかった。
 私は松ぼっくり女に会ったのである。なんだか自慢したくなったので日記を書くことにした。
 2週間前に借りた「文藝2018秋」号だが、読み終わらない。2段組の650ページ。毎日1時間くらい読んでいて、全体の4分の1くらいってところか。そもそもは3年前に文藝賞を受賞した李龍徳の連載がスタートしたので借りたのだが、これまでに2作と違って「在日文学」に取り組み始めた。そもそも文章も内容も粗っぽさ(暴力的)を売りにした作家だが、それがいい方向に結実したらいい、と第1回目の100枚を読んだところで感じた。
 辻原登の中編「月も隈なきは」。定年退職1年が経った男が、妻と娘を残して家を出て、短期間のひとり生活をしてみたい、と思い立ってウィークリーマンションに住む話なのだが、つげ義春の漫画「退屈な部屋」のパクリみたいな展開になって、期待を裏切られた。定年退職者がなんだかとてもいい人に描かれている。こういう毒にも薬にもならぬような男が、そもそも書き置き一枚残して家を出るわけねえだろ、と私は毒づいた。
 羽田圭介の「ポルシェ太郎」は前編とあるから次号後編掲載で完結か。羽田は独特のユーモアがあって、くだらねーと思いつつもつい一気読みしてしまった。底が浅い小説なのだが、重苦しい小説なんて誰でも書ける。むしろ書き手も浅薄なら小説も浅薄という小説があっていい、と思わせる出来映えだった。
 ……というように、いろんな作家の作品がぎっしり詰まった文芸誌って、「もし無人島に一冊本を持って行くのなら?」という問いに応えてくれそうな雑誌だと思う。
 
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