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2017年05月02日21:28

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富士山の裾野は戦争前夜

 山中湖の湖畔から1キロ、富士の裾野にある友人の工房再オープン記念で、朝10時半から午後3時半まで2日連続で「無料コーヒー屋」をやってみた。コーヒー豆とドリッパー&ペーパーとクリームは、事前に鎌倉で調達した。コーヒーミルは家で使っている物を持って行った。
 1日目は店内で待っていたのだが、友人は宣伝をいっさいしていないので、客は知り合いと通りがかった1組だけというていたらくだ。そこで2日目は、店の前に立って私が「客引き」をすることにした。古道であり湖周道路の抜け道でもあるので、結構クルマは走っている。工房は一旦停止の交差点にあるため、店の前でクルマは停まる。そのクルマに向かって、「コーヒーを飲んでいきませんか? 無料ですよ」と私は手をメガホンのカタチにして叫ぶ、関わりを持ちたくないと目を逸らす人、こちらの目を見て笑いかける人、わざわざウィンドウを下げて挨拶を返してくれる人。十人十色で、やってて楽しい。
 最初は私ひとりでやっていたのだが、すぐに友人が「俺もやってみよう」と乗ってきて、さらに怪獣カネゴン(私は知らないのだがウルトラQに出てくる怪獣)の着ぐるみだと目立つよね、と言う。そうだそうだ、目立ってなんぼだぞ! 
 友人に「飲んでって! 無料コーヒー」看板を持たせ、クルマが通るたび、私は大袈裟に手を振ることにした。
 これは目立った。が、「なんとしても目を合わせたくない」というドライバーも増えたのだった(笑)。
 1時間に2台。大人気の水陸両用の「KABAバス」が交差点を通過する。バスは富士山の裾野をちょろっと走ったあと、山中湖上の遊覧バスになるという趣向で、ゴールデンウィークゆえにどのバスも満席状態だった。聞けば、中国人の団体客御用達でもあるそうで、地元民や別荘族はほぼ全員乗らない。
 こんな工房に立ち寄るはずもないバスに向かっても、毎回、私らは大きく手を振った。窓も天井もオープンなので、時々は歓声も上がるし、女性添乗員は「右手には、地元の人たちが手を振って歓迎しています」とアナウンスしてくれる。着ぐるみを着ている友人は体を動かすのがかなりしんどいらしく、バスが行き過ぎると数分間、壁にもたれかかって休んでいた。
 別荘族のおばば(としか言えない気の強いご婦人)が通りかかり、「なんだか怪しい店だねぇ」と立ち止まったので、「コーヒーを淹れさせていただけませんか?」と私は低姿勢でお願いをする。
「不味いと吐き出すからね」とおばばは意地悪そうに言う。
「お好みは濃い、普通、薄い? いずれもご注文に応えます」と私は低姿勢だ。
「そうね、濃いのが飲みたいわ」とおばばは答えたのだが、次の瞬間、「あんたの化粧見て俺、濃いと思ったんだよな」と思うも、口には出さず。「野村監督」夫人を思い出した。ある出版記念パーティーで司会をしたとき来賓で野村沙知代が出席されていて、スピーチをお願いしたことがある。その際、会場のパーティー客に笑ってもらおうと「悪態をついたら日本一の毒舌タレントママ、野村沙知代さん、いきなりで恐縮ですが、スピーチをしてもらっていいでしょうか?」と言ったら、その場でマジ罵倒された前科が私にはある。以来、この経験を活かして、こういう冗談は言わないようになった。
 おそるおそる、コーヒーを出して飲んでいただくと、「あら、意外に美味しいね。そこのカフェより上等じゃない」と褒められ、そのカフェをぼろくそに言い始めて面白い会話になったのだった。
 おばばは1時間くらい、そこで野村沙知代ばりの毒舌と自慢話をしていた。
 友人の友人も駆けつけてくれた。「クスリ」と音楽が好きなおっさんで、彼は愛犬を連れてきていた。犬の話で盛り上がる。彼はコーヒーをおかわりしてくれ、さらには私らと一緒に呼び込みまでやってくれた。なんかとてもいいヤツだ。
 KABAバスに向かって大きく手を振りながら、彼に「俺さ、こんな風に沿道で手を振っていると、タイの田舎の住民になったような気がする」と言うと、「うまい喩えだ。よくわかるよ。タイに行ったことあるの?」と問われる。「うん、あるよ」と答えたら、彼は「チェンマイとチェンライは?」とさらに質問され、「行ったさ、素朴でいいところだ」と答えたところで、話がさらに弾んだ。
 午後4時近くになって疲れてきたので、終了。
 道具類などをクルマに運んでいたら、友人の友人が「またやろうぜ、もっともっと騒ごうぜ」と握手を求めて、私の手を握った。
 ばっちいなぁ、と友だち甲斐のないことを私は想う。というのも、その10分ほど前に彼の愛犬が店の前で吐いてしまい、応急的にトイレットペーパーでゲロをつかんで隣の林に捨て、そのままの手だったのである。が、彼の手を握り返しながら、今日もよかったな、と思う。いろんな意味で、ひとに喜んでもらってなんぼだ。

 翌朝の月曜朝7時前、かまびすしい戦争の砲弾音で目が覚めた。前夜、午前零時過ぎまで極上のエッセイ集を読んでいて、いい眠りに就けたのが、これで一挙にチャラとなる。
 山中湖の富士山寄りに陸上自衛隊の北富士演習場がある。日本でも最大級の面積を持つ実戦演習場で、銃撃音も砲弾音も聞こえる。連日のように、北朝鮮の海岸で一斉砲撃訓練をしている様子が繰り返しニュースで放映されていたが、あれと同じような音だ。いや、すぐそばに富士山がそびえ立ち、そもそもが過疎の田舎ゆえ、音は湖の周囲を暴れ回るように反響し、音の振動が伝わってきそうなほどだった。
 本格的な軍事演習がおこなわれるようになってもう何年になるのだろう。少なくとも20年前は、こういう激しい軍事演習はなかった。
 観光以外に産業がなく、別荘ブームも去り、頼るは自衛隊と日本政府しかない村の経済状況につけ込んで、村内ではあからさまな反対運動はない。
 砲弾も銃弾も、人家がある湖側も向けて発射しない。つまり富士山に向かって撃つ。
 これが「美しい国」であろうか。政府ごり押しで2度も立候補して世界遺産になった富士山に、このような実弾演習をするということに矛盾はないのだろうか?
 辺野古も然り、富士山も然り。
 沖縄では海がイコール神が住むところである。富士山は大半の日本人が聖地と仰ぎ見る山である。常識的に考えて、このような蹂躙は許されないのではないか、
 が、辺野古にしても富士山の東麓と南麓(大演習場がある)にしても、このような事態は国民の大半が知らされてもいないし、知ったところで「日本の平和のためには仕方ない」と考えるだろう。
 7時から15分くらい、爆音の回数を数える。20発は超えていた。たぶん1時間で100回以上の砲撃を繰り返していたように思う。言い方がまずいのは承知だが、お台場の空き地で同じことをやってみろ、都民は驚愕するとともに「戦争は断固反対!」とリアルに思うはずだ。
 自分のためにコーヒーを丁寧に淹れて飲み、前日の夕暮れ前にスーパーで買った卵ロールを食べている間、数分静かになったら爆音というのが2時間以上にわたって轟いていた。私は格段、富士山好きではないのだが、日本人にこの爆音を知って欲しいと思うし、富士山に実弾が撃たれる演習というのも知るべきだと思う。
 いやな朝になった。
 案の定、昼前に山中湖を出て自宅に向かっていたら、西湘バイパスでみるみる間に部厚い雲で暗闇となり、視界がほとんどないくらいの雨が降ってきた。あちらこちらで雷が地上に向かって閃光している。
 西湘バイパスとそれに続く国道134号線は交通量が多い。前後左右、クルマは結構走っていた。が、こういう悪天候というのはドライバーに連帯感を与える。安全運転に徹しよう! 大型トラックも、ポルシェも、軽自動車も、一様に前と周りのクルマを見渡して、慎重な運転だ。前がよく見えないのがつらいが、ドライバーの良心があちらこちらで垣間見られて楽しくもある。
 藤沢市に入ったところで、一気に雨がやんだ。
 とてもいいドライブだった。
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