フォルムの実際 絵画と写真の違い
今でも、絵画と写真の違いを理解していない人が大変多い。絵画の基礎教育を受けている画学生が、写真を見て絵を描いて、それを先生に提出した。画学生に悪気はなかったのだが、先生からきつく注意を受けてしまう。多くの画学生は、モチーフを組んで、それを見てデッサンをしたり、油彩画の習作を描いたりしている。良くある絵画教室の風景だ。画学生が、写真を見て、写真のように描いたデッサンは、評価されない。評価されないばかりか、先生に怒られる。基礎デッサンを学んでいる段階では、写真を元に絵を描く事は、タブーとされているのだ。絵画の模写でも、本当の模写は、実物の絵画を見ながら模写するものだった。西洋の美術館では、模写が許される場合もある。特に油彩画のような絵の具を重ねて発色させる絵画では、絵の写真では、絵の具の含みや重ねられた色の複雑な発色は再現できない。同じように、写真は、ただ、シルエット的な形と平面的な明暗のグラデーションを表現できるだけなのだ。色が付いていても同じで、絵の具の色味、絵肌は、写真には映らない。写真のシルエット的なフォルムと、絵画の奥行きのあるフォルム。 写真の平面的な明暗と絵画の立体的な調子、これらは、質的に、全く違うものなのだ。立体造形的なフォルムや立体的な調子などは、実際に絵画の基礎を学んでいないと理解できないので、一般の人達が、絵画と写真を同じだと思ってしまうのは、致し方ない部分もあるのだが、実際の名画を直接、沢山観た方なら、ある程度、理解できるかも知れない。ただ、日本人の多くは、西洋絵画的な立体描写の感覚を元からは持っていないので、学ばなければ身につかないのだ。立体的調子の変化は、それでも、何となくだが、分かるような気がするかも知れないが、立体的フォルムに関しては、まるで分かっていない、という状況だろう。画家が絵画評論家を露骨に嫌う原因が、この辺りにある。評論家が立体描写に付いて理解していないのが直ぐ分かってしまい、この人には絵が見えていない、と判断してしまうのだ。物を見る、モチーフを見る、絵を見る、ということは、簡単なことではない。あるレベルに達しないと見えない部分があって、立体的フォルムも、そんな要素に入ってしまう。立体的調子は、調子の変化によって立体的に見えるように描く、ということなので、理屈としては、理解しやすいだろう。だが、先生は、言う。ただ膨れているだけの張りぼてだ。単に立体的な調子が描かれているだけでは絵にならないのだ。それは、本当の立体的な調子を描けていないということだ。つまり、そこまでのレベルに達していないのだ。石膏デッサンをやり始めた頃の画学生に良くあるパターンだ。では、立体的フォルムとは、どういったものか。立体的フォルムの理解が浅いか、もしくは、全く理解していない状況が、絵画と写真を同一視してしまう原因になっている。この立体的フォルムを理解する、また、それを描けるようになるためには、とことんモチーフを見る必要がある。よく言われるのが、際の表現だ。面が後ろに回り込んでいる、と先生は指摘する。もちろん、回り込んでいる面は見えない。だが、際を描く時に、面が後ろに回り込んでいるように見えるように描くことが重要になってくる。実際のモチーフは、そうなっている。フォルムがシルエットのように紙から切り取ったようにはなっていないのだ。際をぼかすのとは違う。面が回り込んでいるのだ。写真の場合は、距離の違いによるボカシしか表現手段がない。被写界深度が深い場合は、どんな距離であってもピントがあってしまい、距離の違いによるボカシすらなくなってしまう。この写真の平面的で単調なフォルムの際の表現が絵画の表現との大きな違いの一つだ。絵画の場合、際の変化は特に意識する。際の変化を描き分けることでリアリティが出てくるのだ。デッサンをしていて、際の描写に神経を集中しているからこそ、写真のフォルムの際の単調さが目立って見えてしまう。調子の変化も、平面でしかなく、絵画のような立体を意識した調子の表現は写真にはない。一般の人達は、実際の油彩画よりも映像や写真の方を見慣れているので、絵画との違いに気付かない人も多いのだが、絵画と日常的に接していると、写真の持つ表現と絵画の描写とは別ものだと強く感じるようになる。美術館に足を運んで、生の絵画を沢山鑑賞するしかないのかも知れない。絵画の調子は、写真のような、光の量の違いによる描写ではない。調子の描写は、明暗の描写ではないのだ。調子を明暗として捉えて描写すると写真のようになる。多くのアマチュアの絵画愛好家が描く具象的な絵画は、調子を明暗として描写している場合が大変多い。明暗を描いても一向に問題はなく、それも絵画として成立する、という考え方が現代アートにはある。フォトリアリズム的な描法だ。だが、本来の西洋絵画の調子の描写と、フォトリアリズムの調子の描写は違うのだ。この違いを認識できている一般の人達は、ほぼほぼいないのではないか、と思われる。絵画と写真の決定的な違いは、面だ。面の表現。写真には面の表現はない。西洋絵画の基礎デッサンを学ぶ段階で、面取りという作業をする。面取りの石膏像なるものがあって、それをデッサンする。面表現を学ぶのが目的だ。木彫でも面で立体像を作っていくのは、良く知られているだろう。西洋絵画は、古代ギリシャ、ローマの彫刻から強い影響を受けているため、絵画であっても面取りをする。西洋絵画と他絵画との大きな違いだろうし、これが、絵画と写真との大きな違いともなっている。
西洋絵画のフォルムや調子の描写は、面を描くことでもある。絵画の調子の描写は、光の明暗を描く訳ではない。
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