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2015年05月21日21:49

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車谷さんを悼んで

 旅から戻って、車谷長吉さんが亡くなられたことを知る。
『鹽壺(しおつぼ)の匙』が出てまもなくの頃、大学時代の友人と銀座・松屋裏にある喫茶店に落ち着きいろいろと話をしているうちに、偶然にもこの短い小説に二人とも衝撃を受けていたという一致があって、それだけで嬉しくなった、ということを思い出す。女子中学生は箸が転んでもおかしい年代、というのは女子中学生あたりを指すようだが、現代では30歳代半ばの男でも似たり寄ったりだ。彼と私はその後も興味の対象が似ていたりクロスしていたりで、ときどき不思議な気になる。
 退職後、車谷さんに写真を送ろうと思ったことが何度かあった。正確に言うと、毎年一度は送ろうと考えそわそわとした気になる。退職前に私物などを段ボール箱で2個ほど自宅に送った際、レイアウトに回す時点ではねた紙焼きやアザポジで捨てがたかった写真だとか、作家の手書き原稿などもほんの少し入れた。そのなかに車谷さんのお写真が3枚あった。取材時に同行したのは親しい年輩のカメラマンで、彼は車谷さんの自然な表情を実にうまく捉えていた。車谷さんほどの有名作家であれば、関係する版元に保管されている写真は何千枚とあるだろう。が、自宅で、さらにステテコ姿でリラックスした表情となると、そんな自然なアングルはそうそうないはずだ。さらにインタビューをした日は、私に会う以外に用はなかったこともあって、表情が穏やかだった。だから、捨てられなかったし、捨てちゃまずいだろうと思った。
 もう今さら送るのは遅いか。いや、亡くなられたからこそ貴重となるのか。私には皆目わからない。
 単行本を読んでいて、いきなり自分の名前が出て来たらビックリする、ということを伝授してくれたのも、車谷さんである。お会いしてから3年4年と経った頃、エッセイ集が出たので買って読んだ。『錢金について』というタイトルのハードカバーだ。
 なかに「直木賞受賞修羅日乗」というエッセイがあった。荷風の『断腸亭日乗』をモジった粋なタイトルだ。1998年7月16日に直木賞を受賞する。そこからお祝いやら取材やらの「狂想曲」が始まっていく。7月21日には浦和にあるかかりつけの精神病院へ行っている。7月27日の日記には「一週間風呂にも入らず、肌着も替えず、嫁はんに追求される」と冒頭にあって、夜には白州正子さんとの対談ゲラがバイク便で送られ来たとあった。翌28日は朝日のPR誌『一冊の本』から原稿依頼。29日、水曜日、○○○○氏(=私の本名)からインタビュー申し込みの電話があった、と書かれていたのだった。たぶんそれから1カ月以内で、私が車谷さんにインタビューをして自分で原稿を書いた。私は本来編集の立場にあったのだが、興が乗る人や事物だと自分で取材して書くことにしていた。デビュー作からずっと読み続けていたので、わざわざライターに頼むまでもない。
 車谷さんにどんなことを訊いたのだろう? インタビューテープはすべて捨てたし、掲載誌は取っていないので、わからない。図書館に行って調べるほどのものでもない。
 昨日の晩、そして今日と車谷さんのエッセイ集をあらためて読み直すと、共感するところが多々あった。「反時代的毒虫」だとか「静謐な狂気」と自分自身を自嘲し蔑み慰む言葉の羅列を読んで、彼が私の歳のころに書いた小説やエッセイをもう一回、徹底して読み込んでみるのも面白い実験だ、と思った。「全集」も出ているようだし。

 今日はあまりに天気がいいので買い物がてら大船へ。天気がいいといざ鎌倉となるのか、八幡様周辺は異常とも言える混雑で、日本中の子どもやジジバアが集結でもしたのか、というほど観光客がいた。大して見どころはないのでごめん、でも鎌倉気分を楽しんでね、という詫びの気持ちになる。
 OSをバージョンアップして、それに伴いアプリを大幅に入れ替えたので、写真の整理などを新アプリでやらざるを得ず、最初はいたく苦労した。が、機能や使い方がわかってくると面白い。いろいろなアプリを新たにインストールし、順々に試してみる。私にとって至福の時間だ。
 新聞連載の漱石『それから』がようやく3分の1の時点を過ぎた。ようやくストーリーらしき山が始まろうとしている。毎朝、いちばんに目にするのが漱石と沢木耕太郎というのがこの2か月で、だからなんだろうか、体調はともかく気分がすこぶるいい。
 ちなみに漱石と車谷長吉は底流で案外と似ているところが多々ある。
 共通項の筆頭に来ることは、ともに日本社会が嫌い、というか、ウジ虫のように忌み嫌っているところだ。
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