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2024年04月27日10:12

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本棚624『翻訳できない世界のことば』エラ・フランシス・サンダース(創元社)

 松岡正剛の千夜千冊で本書に触れられていて、魅力的な言葉と優しいタッチのイラストに惹かれ手に取った。

 この本では、様々な国の、他の国の言葉では意味をうまく表せない言葉たちが紹介される。イヌイットの人びとは雪についての多様な語彙を持つと言われるけれど、言葉はそれぞれの国の人たちの対象との距離の近さ、世界の見方を教えてくれる。

 イタリア語の「コンムオーベレ」(涙ぐむような物語にふれたとき、感動して、胸が熱くなる。)、ギリシャ語の「メラキ」(料理など、なにかに自分の魂と愛情を、めいっぱい注いでいる。)、ウェールズ語の「ヒラエス」(帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち)など、どの言葉もお国柄が感じられるとともに、歓びから哀しみまで、微妙で繊細な想いを表すための人間の尽きせぬ努力、熱意が伝わってくる。

 ヨーロッパの言語だけでなく、様々な地域の言葉が集められ、夜空に煌めく星座のような、百花繚乱の庭園のような、多彩な言葉に魅了される。例えば、南アフリカのズールー語の「ウブントゥ」(あなたの中に私は私の価値を見出し、私の中にあなたはあなたの価値を見出す。人のやさしさの意)、ペルシア語の「ティヤム」(はじめてその人に出会ったときの、自分の目の輝き)、タガログ語の「キリグ」(おなかの中に蝶が舞っている気分。たいていロマンチックなことや、すてきなことが起きた時に感じる。)など、一つの言葉から万巻の物語が紡がれるようなイメージをもたらしてくれる。

 中でも、最も心に残ったのは、イヌイット語の「イクトゥアルポク」(だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること)だ。雪に包まれたアラスカの夜の静けさや寂しさ、人恋うる心が切々と伝わってくる。

 日本語からは、「こもれび」や「ぼけっと」といった言葉が取り上げられている。一時はエコノミックアニマルとまで揶揄された日本らしからぬ、伸びやかな言葉が選ばれていることがどこか嬉しい。
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