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2020年07月05日02:12

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凶弾に斃れた2人のジョン



ノーベル文学賞受賞後初となるボブ・ディランの新作『Rough and Rowdy Ways』は全英チャートで1位となり、また、先行シングルの「Murder Most Foul」もキャリア初の全米チャート1位となっている。2001年の『 Love and Theft』あたりから無双状態に入っているディランだけど、アラエーになってキャリア史上最高の全盛期を迎えている様は圧巻である。なんなんだこのオヤジは。

前作の『テンペスト』が、すでにかなり明確にラストアルバムになることも意識して作られたアルバムだったように思うけど、ことにアルバムラストを飾るジョン・レノンに捧げられた「Roll On John」はまるで映画のエンドロールのような余韻に満ちた静かな情感を漂わせていた。その後、カバーアルバムを出すだけでオリジナルアルバムは出していなかったディランだけど、コロナ禍の世相を見て、「危機の詩人」としての真骨頂でまた創作意欲に火がついたのだろうか、まさかの新曲、新アルバムで驚かせてくれた。

興味深いのは、「Roll On John」も「Murder Most Foul」も、「ジョン」という60年代の時代精神を決定づけた2人を歌ったものであること。レノンとケネディの2人が同じファーストネームの持主であることは偶然に過ぎないけど、ディランにとってこのともに凶弾に斃れた「2人のジョン」は、老年に至り自身のキャリアを振り返る際にも、特別な存在として思い出されるものだったのかもしれないな――と思い至り、「Murder Most Foul」は、「Roll On John」と対になる曲というか、「Roll On John」の続編に位置する曲というか、そんな風に感じるようになった。

ディランとレノンの関係で言うと、1998年に出たジョンの未発表曲・未発表音源集の『WONSAPONATIME』のラストを飾るのが「Serve Yourself」という曲で、これは、70年代末から80年代初頭にかけての「ボーン・アゲイン・クリスチャン」期のディランを皮肉った曲である。いまさら神なんかに帰依してないで、自分で自分を救って見せろよ、みたいな感じの歌詞で、皮肉られたディランの方からすると相当嫌な感じのはずの曲なのだけど(「How Do You Sleep?」のディラン・ターゲット版というか)、そんな絡まれ方をしていながら、ディランの方は、しかし「Roll On John」で全てを赦してジョンの存在を美しく回顧しているのである。「Roll On John」は「Serve Yourself」へのアンサーソングとして受け取ることもでき、このディランの器の大きさに、いっそう「Roll On John」を聴いていて目頭が熱くなるものがある。

いま、ジョン・レノンとジョン・F・ケネディのことを歌って、ディランほど様になるミュージシャンもいない。そう考えると、ディランが80歳近くまで生きながらえ、壮観とも言うべき全盛期を現出しているのも、なにか天の配剤ともいうべき不思議な力を感じる。



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