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2016年06月28日15:18

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脱出からの脱出?

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ロジャー・ダルトリーも離脱派。ザ・フーの「ババ・オライリー」に、

 The exodus is here!

というフレーズがあるけど、「exodus」というのは元々は旧約聖書の「出エジプト記」に由来する言葉。モーゼに率いられた古代イスラエル人のエジプト脱出の神話を、古い束縛からの脱出のメタファーとして「ババ・オライリー」のリリックでピート・タウンシェンドは引用しているのだろう。

過去のありとらゆる約束事や関係性を(自分自身の発言も含め)、何もかもチャラにして、何にも無いまっさらな場所からすべてをスターティング・オーヴァーしよう――という、それこそ神話的スケールの解放感がこの「The exodus is here!」というフレーズには溢れているのだけど、今後ロジャーがこの歌詞を歌うのを聴くたびに、僕はどうしても英国のEUからの「exodus」もオーヴァーラップさせてしまうことになるだろう。

ちなみに「ババ・オライリー」には、

 It's only teenage wasteland

というフレーズもある。この「wasteland」はおそらくはT.S.エリオットの『荒地(wasteland)』からの引用で、ピート・タウンシェンドは、エリオットの歌った欧州の没落が現実のものとなった第一次大戦後の荒廃状況を、思春期の暴力的ニヒリズムのメタファーとして「ババ・オライリー」の歌詞で使っているのだと僕は解釈している。

それにしても、エリオットが「wasteland」と呼んだ第一次大戦後の欧州を覆った荒廃状況からの「脱出」が、そもそもの欧州連合の遠い設立理念だったことを考えると、エリオットを引用した楽曲でその欧州連合からの「脱出(exodus)」をロジャーが寿いでいるかのように見えてしまう光景は、なかなか強烈な歴史的な皮肉ではないだろうか。これは脱出からの脱出か?

――いずれせよ、いつの時代にも、それがどんな形にせよ、窒息しそうな現状からの「出口」を人は求めている。『出エジプト記』が数千年の時を超えていまだに人びとに胸のすくような解放感を齎すのも、そういう人間の根源的な「脱出願望」を神話的な次元でエージレスに物語化しているからだろう。今回の英国のEU離脱が現代版の「出エジプト記(exodus)」なのだとしたら、そういう神話的次元での民衆の心理的淵源――丸山真男風にいえば「古層」になるだろうか――にまで遡行して捉えなければ、その本当の意味は理解できないのかもしれない。



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