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2016年04月09日22:12

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サー・ネヴィル・マリナー アカデミー室内管弦楽団

(4月9日、東京オペラシティ・コンサートホール) 
 桜散る4月の土曜日の午後にこんなに素敵で心温まるコンサートが聴けるとは何と言う幸せ。生の音楽を聴いていて本当によかったと思える時間だった。こういうコンサートを聴いたあとは誰かと感動を分かち合いたくなるものだが、幸い今日は音楽を深く愛する知人が大勢来ており、その思いもかなえられた。正直サー・ネヴィル・マリナーがこれほどの大指揮者だとは勉強不足で生を初めて聴く者として恥じ入るばかりだ。

 1曲目のプロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」を聴いて仰天した。アカデミー室内管弦楽団の弦の美しさは最高級の絹織物のように滑らかで光沢があり、その精緻なアンサンブルは最上の絹糸のように繊細。高貴な気品をたたえた、えも言われぬ響きは、日本はもとより、これまで聴いてきた海外の室内オーケストラにも比較できるものが思い浮かばない。マリナーの指揮の若々しさと、中庸のテンポ感も絶妙。フルート、ファゴットのソロも素晴らしい。東京オペラシティ・コンサートホールという響きの良いホールでよかったと思う。
 2曲目のヴォーン・ウィリアムズ「トマス・タリスの主題による幻想曲」は弦だけのアンサンブルを更に堪能した。舞台上は下手奥に第2合奏団が配置され、中央に弦楽四重奏を中心とした第1合奏団が並ぶ。序奏のあとタリスの主題が豊かな低音とともに奏でられる。コントラバスは1台、チェロが2台とは思えない響き。ヴィオラのソロが奏でる2つ目の旋律の深い響きに打たれる。続くヴァイオリンのソロと弦楽四重奏の対位法的な響きは天国的。

 後半のベートーヴェンの交響曲第7番は8型2管編成の室内管弦楽団とは思えない豊かな響き。ふわりと柔らかく奥行きがある。光沢のある弦とまろやかな木管、そして張りのある金管が絶妙にブレンドされる。 
 第2楽章アレグレット最初の変奏、第2ヴァイオリンの主旋律とヴィオラ、チェロの対旋律の対話の美しさは最も感動した。第3楽章と第4楽章を間髪入れず続けるマリナーは今月15日で92歳とは。その若々しさ。どこにも無理がなく、ただ音楽だけが純粋に鳴っているベートーヴェン。巨匠の至芸という言葉が正統で真実の言葉として浮かんでくる。神々しいと言ってもいいかもしれない。
 アンコールの2曲がまた泣きたくなるほど素晴らしかった。モーツァルト歌劇「フィガロの結婚」序曲の天馬空を行くような軽やかで何物にもとらわれない浮遊感と自由さを持つ響き。マリナーでモーツァルトのオペラ全曲を聴けたら卒倒するのではないか。そして「ダニー・ボーイ」。誰の編曲だろう。弦楽アンサンブルの豊かな低音が心を揺さぶる。中間部の盛り上がる部分で吹くホルンのソロも威厳があった。
 これがサー・ネヴィル・マリナーとアカデミー室内管弦楽団の日本での最後のツアーというのはかえすがえす残念で仕方がない。もう一度N響かどこかのオーケストラで聴く機会はあるのだろうか。
(c)Bill Page, Mark Allan

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