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2015年11月23日20:11

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エレキの若大将

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『椿三十郎』や『赤ひげ』での理想に燃える青年武士の好演が印象的だったので、「俳優」としての加山雄三のことが気になり、また、60年代若者風俗を知る資料として、加山雄三主演映画の代表作であろう『エレキの若大将』を観てみた。

――のだけど、うーん、これは果たしてどういう年齢や階層をターゲットにして作られた映画なのだろう。

60年代前半の若者映画というと、橋幸夫と吉永小百合主演の『いつでも夢を』も代表的な作品になると思うのだけど、『いつでも夢を』は夜学に通う若者たちの姿を描く下町を舞台にしたミュージカル風の映画で、相当ご都合主義的な部分もありながらも、戦災孤児の問題や新憲法下でもなくならない経済的格差の問題など、社会派的な要素もうまく取り込まれていて、なかなか味わい深い作品に仕上がっていた。

それに対して、『エレキの若大将』は金持ちの子弟の通う私立大学(おそらく慶応大学あたりがモデル)の学生たちを主人公にした、これも青春ミュージカル風の映画なのだけど、もう何もかもがご都合主義で、社会問題もクソもなく(加山雄三のバンドのメンバーになる寺内タケシが無学な蕎麦屋の店員という設定なのは、もしかしたら階級差を越えた「友情」を象徴させようとしていたのかもしれないけど)、漫画以下の子供だましな演出と展開が続いて、ここでストーリーを紹介する気にもなれないほどで、これを観て当時面白がっていた人たちというのが、一体どういう種類の人たちだったのかが想像できなかった。

興行成績的には、『エレキの若大将』は『いつでも夢を』以上にヒットしたみたいだから、相当多くの人々がこの映画を当時楽しんだのだと思われる。僕の父親も加山雄三のことが好きで、車を運転していて、気分が乗ってくると「君といつまでも」や「海・その愛」などを突然歌い出すことがあったから、当時劇場で『エレキの若大将』を観ていたのかもしれない。この映画は1965年公開だから、当時僕の父親は27歳のはずであるが、しかしこれは27歳の一人前の大人の男が観て、面白く思える映画だろうか。もしかしたら、戦災孤児の問題や経済格差の問題といったシリアスで最終的な解決が本来不可能な問題などは忘れて、せめて映画館に居るひと時くらいは、現実にはあり得ないような夢物語を楽しみたい――という人々の願望に応えたからこその大ヒットだったのかもしれない。1965年の時点では、「大学生」という存在自体、現代に較べるとずっと社会的には少数の選良だったとされるが、そんな「大学生」への庶民の憧れも、この映画には投影されつつ大ヒットしたのかもしれない。どんなに嫌な奴も最後にはみんないい人になってしまう性善説な展開も大衆娯楽の大切な基本である。ただ、エンタメに徹したにしては、アクションシーンやスペクタクルシーンがしょぼしょぼで、悪い意味で「現実」から逃れることができていない。

まあ、それでもバンドの演奏シーンはさすがにカッコよく撮られていたかな。「エレキ」が売りなだけに、加山雄三や寺内タケシが演奏する「テケテケ」なエレキギターの音も当時の水準としては相当迫力があったのではないだろうか。勝ち抜きエレキ合戦に登場する元祖「ギャルバン」であるアイビー・シスターズの演奏シーンは、そのファッションも含めて、現代の目から見ても(あるいは現代の目で見るからこそ)カッコ可愛い。特にアイビー・シスターズのドラムの女の子は、ちょっと剛力彩芽に似ていて目を惹くな――と思ったら、演じているのは後に加山雄三夫人になる松本めぐみとのこと。勝ち抜きエレキ合戦の司会者役で出演している若き日の内田裕也のいちいち寒いMCを連発しながらも平然としている強心臓ぶりも、なかなかの見物。田中邦衛ののび太とスネ夫を合わせたような金持ちのへたれなバカ息子ぶりも、まったく好感が持てなくて、『北の国から』の熱い父親ぶりのギャップに戸惑う。

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高度経済成長が進行していた60年代半ばというのは、第一次産業に従事する人口が全人口の半分以下になり、日本の社会構造が劇的に変化し、知識人と大衆の区別が曖昧化した時代だと言われる。1965年公開の『エレキの若大将』は、物語の主題が不明で、現実に対する批評性も皆無で、エンタメとしても中途半端で、さらには脚本があまりにも子供だましなので、何をどう楽しめばいいのかきわめて不可解な映画なのだけど、そんな不可解な映画が60年代半ばの日本では大ヒットしていたという事実それ自体が、もしかしたら激変する当時の日本の社会の掴み難い不気味さを、それこそエレクトリックにアンプリファイドしつつ象徴している、実はきわめて問題的な作品なのかもしれない――と、とりあえず結論づけておく。

【追記】

上では文句ばかり言ったけど、ヒロイン役の星由里子は、親しみやすい美貌と庶民的な品のよさを併せ持っていて、彼女が当時のアイドル女優だったことには納得。個人的にも、相当好みのタイプの女性だということを、ここにカムアウトしておきます。彼女の存在を知れただけでも、個人的には観た甲斐があった。

あと、アメリカナイズされつつ日本的な土着性も引きずった若者風俗、交通事故から始まる物語、レコード店を舞台にしての恋模様――と、村上春樹の『風の歌を聴け』と重なるモチーフが散見されることも気になった。『風の歌を聴け』を書く際、春樹はルーカスの『アメリカン・グラフィティ』の日本版を意識したらしいけど、実は『エレキの若大将』もひそかに元ネタにしていた――とかだったら、村上春樹の評価が僕の中では俄然アップする。




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