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2016年07月04日00:35

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わき目もふらず破滅に向かって突き進む人間のみが美しい

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マイケル・チミノが亡くなった。

マイケル・チミノというと「ロシアン・ルーレット」を世界中に知らしめた『ディア・ハンター』が何と言っても代表作だろうけど、僕が最も好きなチミノ作品はミッキー・ローク&ジョン・ローンW主演の『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』にとどめを刺す。マフィア映画としてもコッポラの『ゴッドファーザー』やレオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』よりも、僕は『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』の方が好き。

マイケル・チミノの作風は、簡単にまとめるとアメリカにおけるマイノリティの歴史に拘った壮大なバイオレンス大河ロマン――ということになると思うのだけど、『ディア・ハンター』にせよ『天国の門』にせよ、見せ場の迫力には途轍もないものがあるのだけど、全体的にはとにかく冗長で、正直観ていてかったるい。『天国の門』に至っては、あまりの冗長さに撮影期間は延びに延び、製作費も膨れ上がり続け、挙句は公開後の興行成績も散々で、ついに配給会社のユナイテッド・アーティストが倒産に至ったほどである。

ところが、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』だけは、映画会社の強硬な主張で、元々4時間近くあったフィルムを強引に2時間強に編集したことにより、いつものチミノの悪癖である散文的な冗長さがなくなり、全編劇的緊張感に満ちたスピーディーなバイオレンス・アクション映画に仕上がっているのである。しかも、ヒョウタンからコマで、一つ一つの場面の絵作りは凝りに凝っているから、きわめてスタイリッシュなバイオレンス映画が実現することになった――というのが私見。もちろん、W主演を務めたミッキー・ロークとジョン・ローンのアンサンブルが奏でる、ともに全盛期ならではの、ときに同性愛的なエロティシズムすら感じさせる際どい色気も見逃し難い。

色々とケチをつけようと思えばケチのつけられる映画だと思うのだけど、ミッキー・ロークとジョン・ローンのW主演のアンサンブルが功を奏した映画全体の劇的緊張感が、10代の頃からこの映画が僕の心を捉えて離さない最大の理由だと思う。とにかく、戯曲的な対立のドラマツルギーの構造の中で、二人の主人公は運命的な力に駆られながら脇目もふらずに破滅へと向かって突き進んでいくのである。

「悲劇というのは、必然性と不可避性をもって破滅へと進んでゆく以外、何もない。人間が自分の背負ったもの、自分に背負わされたもの、そういうもの全部しょって、不可避性と必然性に向かって進んでゆく」(三島由紀夫「三島文学の背景」)

「ぼくの小説があまりに演劇的だ、と批評する人もありますけれども。必然性の意図と不可避性の意図が、ギリギリにしぼられていなければ、文学世界というもの、ぼくは築く気がしない」(同上)

「そういうものがぼくにとっては、ロマンティックな構想の原動力になるので、私の場合「小説」というものはみんな、演劇的なのです。わき目もふらず破滅に向かって突進するんですよね。そういう人間だけが美しくて、わき見をするやつはみんな、愚物か、醜悪なんです」(同上)

――上に引いた三島由紀夫の死の少し前の言葉は、そのまま『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』への注釈になっているようにも読める。さらに、次の三島の二二六事件評も僕はそのまま『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』の解説として機能するように思われてならない。

「加害者・被害者の、一秒の何十分の一の短い瞬間にせよ、出会と共感が、あの事件の最高の瞬間にひらめいたと考えるのは、単に私の夢想であろうか。青年将校たちによってあの事件が夢みられていたと同時に、狙われていた重臣たちによっても、別の形で夢みられており、反対側からそれぞれ急坂を駆けのぼって、その絶頂で、機関銃の砲火の只中に出会ったのではないだろうか。「話せばわかる」「問答無用」という、あの五・一五事件の有名な端的な会話には、殺戮を前にした魂の恐怖と戦慄のうちに、このような人間的出合が語られていはしないだろうか。そのようなとき、人間はただ、銃弾か刃によってしか、語り合うことができないのではなかろうか」(三島由紀夫「二・二六事件と私」)

ともあれ、僕の中に元々三島的な「悲劇のエステティク」へ惹かれる感性があったから思春期に『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』に魂を鷲掴みにされたのか、逆に、思春期の『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』体験があったから後に三島文学に反発半ばで深く捉えられることになったのか、その因果関係の詳細は定かではないけど、今夜はマイケル・チミノを偲んで、久しぶりに『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』の映像をBGVにして晩酌しようと思う。

ちなみにこの映画は、構成の劇的緊張感や、映像のスタイリッシュな美しさや、ディテールのキッチュないかがわしさだけでなく、実は音楽もとてもいいのだ。



『ディア・ハンター』マイケル・チミノ監督死去
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=14&from=diary&id=4074449

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