さびれた村に
今ぞ死ぬるそのとき妙に落ち着いてゐる夢だつた のそのそと起く
一億と二千万ゐてわれなどは活躍しない二千万の方
わが脳のさびれた村に潜むらしほらほらあいつ、あいつのなまへ
万聖節前夜祭（ハロウィーン）の明くる早々聖誕祭祭歌（クリスマスソング）は流る いい国だなあ
うさぎなど抱きて小中英之を迎へけむその日永井陽子は
わたくしが存在すること認知されわたくしはけふ避けられてゐる
行間の棘にやられし翌朝はわさわさ食らふみどりのサラダ
全員が故人とならむ写真なれ大室山を背にして並ぶ
※２首目（一億と…）詞書 ： 一億総懺悔、のち、一億総活躍とぞ
※５首目（うさぎなど…）詞書 ： 永井陽子、二〇〇〇年一月二六日歿。小中英之、二〇〇一年十一月二一日歿。
＊ ＊ ＊ ＊
『玉葱集』？
２０１５年夏、第一歌集『アルゴン』（六花書林）を刊行した。幸い、さまざまな方からさまざまな感想をいただくことができた。
「『沼津の姉』の歌に注目した」「『沼津の姉』の歌は多すぎる。遊びすぎだ」「�兇遼粗�の言葉遊びの歌がおもしろかった」「あの言葉遊びは幼稚だ。誰でも一度はああいうことをやってみたくなるものだが、普通、歌集には残さない」「『半島』３０首が一番良かった」「『半島』３０首が一番退屈だった」「迷い、悩みつつ生きてきた中年以降の男の軌跡を見事に掬い上げている」「あまりにも自意識が前面に出すぎている歌が並んでいて、読むのが苦痛だった」などなど。
こうして書き出してみると、まことに毀誉褒貶というのはこういうことを言うのであろうという気分になってくる。が、少なくとも毒にも薬にもならぬというものではなかったのだろうと思って、それだけでも良しと思うことにする。「一ばん怖いのは、褒められることです。自分を褒めて呉れるのは『敵』だと考えることが、いつでも大切な心掛けです。褒められて駄目になった芸術家が、世界にはどれぐらいいるか分りません」（玉城徹より岡井隆宛公開書簡、「短歌現代」２００７年１１月号）とまでは言わぬとしても、通り一遍の褒め言葉よりはカシミールカレー級の辛口の評が有り難い。それによって、自らの歌の位相が多少は客観的に見えてくるように思われるからだ。
「剥いても剥いても核のない玉葱のような自分というものへのこだわりは捨てた」と三井ゆきさんは書かれていたが（「うた新聞」２０１４年１２月号）、拙詠の場合、かなり重症の玉葱症候群が認められると言わざるを得ない。『アルゴン』ではなく『玉葱集』というタイトルにしても良かったのではないかと思うぐらいだ。
もしこの玉葱症候群を抜け出ることができたら、表現ジャンル自体も短歌から俳句へ移ることができるのではないか、という予感がかねてより微かにあって、ひそかにそれを待望する気持ちもなきにしもあらずだったのだが、どうやらこのまま玉葱と心中することになりそうである。
（「短歌人」２０１６．１．「三角點」欄より転載）
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