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2024年04月07日14:27

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本棚618『11人いる!』萩尾望都(小学館文庫)

 「受験生たちは来る はるかな銀河のそれぞれの星ぼしからそれぞれの夢や未来をだいてやって来る なんのために十一人目はここにいるのだろう 十一人ーみなぼくとおなじ年ごろのもの その十一人目はどんな夢や未来をだいているのか」

 昨日、日経新聞の書評欄を読んでいたら、本書が紹介されていた。大学へ行く意味を見出だせなかった高校3年生の夏、この本に出会い、大学も良いところではないかと思ったというエピソードが興味深く、本書を手に取った。

 宇宙大学の選抜試験の舞台となる宇宙船に、本来、受験生は10人のはずが、11人乗っているというところから物語は始まる。この11人目は誰かという点がミステリー的要素を全体に与えつつ、様々な星ぼしからやってきた個性豊かな受験生たちが生き生きと描かれる。53日間宇宙船で生き延びるという最終テストでは、様々なトラブルが生じ、時に疑心暗鬼に陥り対立し、時にそれを乗り越える信頼や友情が芽生える。

 受験生たちの抱える境遇や運命は様々で、例えば、ある受験生の星は風土病により、みな三十歳前後で死んでいく中、宇宙大学に入学し、「みんな長く生きられて より多く働いて 幸福になれる」ことを夢見る。星の違いほどの差はないけれど、日本全国の様々な地域から、それぞれの夢を抱いてやって来る、私たちの大学もきっと宇宙大学と同じなのかもしれない。

 相次ぐトラブルをどのように切り抜けていくのか、11人目は一体何者かという謎の答えはここには書かないが、それぞれの受験生たちが自らの道に向かって進んでいくラストの一コマの「未来へ!」という言葉の煌めきは、半世紀の時を経ても全く色あせていない。

 宇宙大学に入学してからを描いた「続・11人いる! 東の地平 西の永遠」も一気に読ませる。想像もできない宇宙規模の果てしないスケールの大きさと、今の我々と寸分も変わらない人間の感情とが混然となった、美しい詩情を伴ったラストに心が震えた。

 「そうして いくつの心が結ばれていくのだろう この時の中この星ぼしの下にー つきぬ人の思いよ 夢よ 東にはるか 西にはるかなる いく千億の宇宙の 永遠なる地平よー」
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