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2024年04月01日17:02

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3/30 生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真@東京ステーションギャラリー

3日前に戦後日本を代表する写真家・中平卓馬をみたので、今度は戦前日本を代表する写真家・安井仲治を見に行く。

東京駅はこの日も沢山の観光客でごった返していたけれど、ギャラリーの自動ドアが開いたとたん静寂。観覧者は少なくないが、ストレスにならない。おしなべて写真展の観客は静かでマナーが良い。本当に好きな人だけが来ている、キャプションをちゃんと読まないとわからくなる、「キレイねえ」「ステキねぇ」という、つい口から出がちな感想に当てはまらない作品が多い…等々理由は様々だろう。
展示室はすべて撮影禁止。チケット代わりに、安井の写真がもらえる。何種類あるのだろう、どれが当たるかはわからない。
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1903年大阪生まれ。1942年にわずか38歳で亡くなったアマチュア写真家である。アマチュア写真家といっても現在のそれとは意味合いが異なるようだ。安井は名門・浪速写真倶楽部で頭角を表し、銀鈴社を作り、丹平写真倶楽部で活躍し、作品を発表、後進の指導もしていた。
土門拳が評価し、森山大道が「大きな山嶺」と尊敬した。
大正デモクラシーから戦争前夜まで、約20年という短い写歴の間に、一言では言えないような多彩な仕事をしている。それは、時代の流れと連動もしているが、安井の弛まない好奇心と感受性によるものだろうと思う。
とても面白い展覧会でした。写真はちょっと…という人でもアート好きならきっと楽しめます。
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https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202402_yasui.html
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日本写真史において傑出した存在として知られる安井仲治(1903〜1942)の20年ぶりとなる回顧展。大正・昭和戦前期の日本の写真は、アマチュア写真家たちの旺盛な探求によって豊かな芸術表現として成熟していた。この時期を牽引した写真家の代表格が安井仲治である。安井は38歳で病没するまでの約20年という短い写歴のあいだに、驚くほど多彩な仕事を発表した。その作品は同時代の写真家をはじめ、土門拳や森山大道など後世に活躍した写真家たちからも掛け値なしの称賛を得ている。
安井はさまざまな被写体にカメラを向け、多岐にわたる技術や表現様式に果敢に取り組んだ。しかし、それらの写真は世界に対する透徹した態度と感受性に貫かれている。なんでもない景色のなかに「世界の秘密」を発見した驚きと興奮。小さく、醜く、一顧だにされないものにさえ注がれる慈しみのまなざし。安井が「見たもの」に思いを馳せ「見せたもの」に浸るとき、私たちの内にはさまざまな思考と感情が去来することだろう。安井の写真には100年の時を超えてなお私たちを惹きつける魅力があるのだ。本展は200点以上の出展作品を通じて安井仲治の全貌を回顧するもの。戦災を免れたヴィンテージプリント約140点、ネガやコンタクトプリントの調査に基づいて制作されたモダンプリント約60点のほか、さまざまな資料を展示。安井の活動を実証的に跡付け、写真の可能性を切りひらいた偉大な作家の仕事を現代によみがえらせる。


1 1920sー仲治誕生
1920年代「芸術写真」と総称される絵画に近い風合いをもたせた写真が流行。当時の安井も様々な技法を用いて制作する。

《クレインノヒビキ》
油性の顔料で描画するブロムオイルという技法。パリ印象派の絵画をモノクロにしたかのよう。
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《猿回しの図》
猿と猿回しが主ではなく、それを見る人々それぞれの人間性を写し取る。
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だから、人物も上手いなぁと思う。
《或る学生の像》(童女スケッチ)(童女スケッチ)
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(横たわる女)
裸婦の滑らかな後ろ姿が白く浮かび上がる。屏風絵の効果やコントラストを意識的に絵画風に仕上げたのだろう。
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2 1930s-1ー都市への眼差し

この頃安井は関西写真界の中心となって仕事をしていた。

《草》
キリッとした草やたんぽぽの綿毛のシルエットが美しい 
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《工事場》
俯瞰のこの構図が素晴らしい。手押し車の中のコンクリートと労働者の汗が泡立つ。
「美しいというには気がとがめる…美しくないなら写す必要はない」
私も美しいと思う。
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1931年「独逸国際移動写真展」という展覧会で、マン・レイやモホリ=ナジなどが紹介され、日本の写真界は「芸術写真」から「新興写真」と呼ばれるスタイルへと流行が移行する。

《旗》
メーデーを撮った一連の作品。すでにこの時代に「ブレ」の効果を能くしていたのか!ムーンカーチ・マールトンを意識したという。
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(凝視)
トリミングし反転させた顔面、重機のワイヤーなど別々に撮った3枚のネガを4点多重露光でプリントした写真。隣にそのコンタクトシートが展示してあったが、その組み合わせに繊細な神経を使っていたのがよくわかる。
当時は望遠レンズなんてなかったし、パソコンで簡単に合成なんてありえない。イメージに近づけるための重要で綿密な作業だったのだろう。
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《相剋》
剥がれかけた政治団体のポスターの上に、また別の政治団体のポスターが。
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《鎌と斧》
階段に鎌と斧が置かれ、その影がアルファベットのBKに見える。ただそれだけの写真だが、共産主義のシンボル「鎌と槌」を思い出したり、想像が膨らむ。
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《即興》
チケットでもらった写真。花火と合成であった。
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3 1930s-2ー静物のある風景
このカテゴリーの写真がじんと来た。愛しき小さな命への眼差しが優しい。この頃、身内を亡くしたこともあってのことだろうと解説にあったが、安井の写真は一貫して、小さいもの、か弱いもの、立場の弱いものなどに優しく向けられているような気がする。

《蛾(一)》
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《蛾(二)》
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(夏の妻)
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(少女と犬)
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《犬》
子供が入院していた病院の裏へ回ったら、医療実験検体用の動物の小屋があったそうだ。悲しく切ない。
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《甕工》
すだれの影なのだが、職人の体にあたり、こんな不思議な効果を生み出している
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《公園》
撮影する場所にある静物を組みあわせるという独自の手法「半静物」を編み出す。全く関係のないものを一画面に置く絵画のシュルレアリスムのようなものか。
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《海浜》
これは大変な評判になってあちこちで「模倣」されたそうだ。
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《ネギの花》
「朝鮮集落」を題材としたシリーズも撮った。椅子の上のネギは安井自ら置いたもの。「ここでほんとうの人間らしい顔を見た」と語っている。
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4 1930s-3ー夢幻と不条理の沃野
「新興写真」は衰退し、シュルレアリスム(前衛)写真へ、の時代。「物体の中に潜む驚異、存在すること自体の秘密を撮る」とフォトモンタージュは使わず、平凡な日常風景の中にそれを求める。

(背広)
剽軽な絵柄なれど、明暗のコントラストが素晴らしい。麻のジャケットの質感。その布の重なり方や襞の様子で、影の落ち方や光の透け具合が異なり、微妙なニュアンスを表現。
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(構成 牛骨)
これもチケットでもらった写真。フォトモンタージュではない、シュールさの方が私は好きだ。
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1938年頃、国防のため撮影できる区域の制限ができ、モデル撮影が増えた、という。その撮影会で撮った写真。
わざとこんな表情を作らせ、ライティングをする。映画のワンシーンのよう
(恐怖)
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植田正治を思い出したり
(作品)
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5 Late 1930s-1942ー不易と流行

《犬》
所在無げな犬の背後には、高校野球試合の速報と国外の戦況を伝えるビラが貼られている。侘しさ。
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《顔》
女学生の顔がいっぱい。首を様々な方向に向けて、笑ったり怒ったり泣いたような顔も。「銘々好きな方向に首を傾けて、なんでもいいから表情作って」と指示して撮ったのであろうか。1940年に撮られた作品。整然と同じ方向を向かねばならなくなった社会への皮肉か。
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「流氓ユダヤ」シリーズ
杉原千畝による「命のビザ」によってホロコーストから逃れ、神戸に到着したユダヤの人々を安井は丹平写真倶楽部の仲間と撮る。
(流氓ユダヤ 荷物)
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(流氓ユダヤ 窓)
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山根曲芸団のシリーズ
各地を渡り歩く流氓ユダヤと重ね合わせていたのかも。哀愁と強かさを秘める。
(馬と少女)
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(サーカスの女)
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終章では、安井が愛した芭蕉の言葉「不易流行」が紹介されていた。不易とは「変わらざる事」で不変の本質を指し、「流行」とは絶えざる変化を指す。安井はこのふたつを等しく重視して仕事をしたのだろう。
その思いは、孤高の画家・熊谷守一氏の生き方に共感しこの肖像が生まれたのかもしれない。わたしも大好きな画家のひとり
《熊谷守一氏像》
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安井は1941年38歳の若さで病没。↓は、その年に撮った写真。
《雪》
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《上賀茂にて(二)塀》
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終戦を知らずに亡くなったわけだが、全ての価値観がひっくり返った戦後にもし生きていたらどんな写真を撮っただろう。
アーティスティックで、シュールで、時にして、ジャーナリスティックで、新鮮な手法で驚かせながらも、弱者に対する、ゆるぎない愛が根底にある写真家。
有意義な展覧会でした。

愛知県立美術館、兵庫県立美術館巡回を経て、現在東京ステーションギャラリーで開催、4月14日まで。

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