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2023年09月05日05:30

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酒井佑子の歌(5)

四人共産団のやうに暮して夕ぐれは皿に置く一枚のももいろのハム  (「短歌人」2014年4月号)

・・・「共産団」という語がユニーク。いわゆる団塊の世代近辺の読者なら「コミューン」という語を想起するだろう。今ならハウスシェアリングあるいはグループホームか。「四人共産/団のやうに暮して/夕ぐれは/皿に置く一枚の/ももいろのハム」という句切れだろう。初句・2句は「四人共産団の/やうに暮して」とも切れるが、初句10音は重すぎるし、「共産団」というユニークな語を句跨りにしている、と読んだ方がいいと思う。「一枚のももいろのハム」は薄く切られたハムなのだろう。その一人一枚というつましさと「共産」の理念が響きあう。が、ぎゃくにそこからはみ出すようにして「ももいろ」は「腿色」という文字にも感じられてくる。

…と書いたのだったが、その後短歌人横浜歌会の帰り、この歌について酒井さんに、「『四人共産団』という言葉がおもしろいと思いました。今ならグループホームでしょうか、ひと昔前ならコミューンといったところでしょうか」とうかがってみたら、「そうじゃなくて、あれは小説の題名なんですよ」と言われるのでびっくり!

ナンタラいうカタカナ名の作者の作品を二葉亭四迷が訳している本があるのだそうで、酒井さんはそれを読まれたことがあるのだが、今、その本が行方不明になってしまっていて・・・、というようなことであった。

ナンタラいう作者名は酒井さんははっきりと言われたのだが、一度聞いて覚えられるような人名ではなくて、帰宅してからネットで調べてみたら、たしかに「四人共産団」で検索するといくつかのサイトが出てきた。そのナンタラいうのはポターペンコという人で、二葉亭の全集にその翻訳が入っているらしい。

が、それ以上のことはネット上の情報ではよくわからなかった。そのポターペンコというのがどのような作家なのか、「四人共産団」とはどのような作品なのかというようなことは、今のところわからぬままである。多少なりとも意味のありそうな情報としては、「本を語る会」というサイトの番外地みたいなページに、この作品について木田元さんが「ポターペンコという妙な名前のロシア人作家の作品というふれこみだが、私は長いあいだ、これを二葉亭の創作だと思っていたし、いまでも半信半疑である」と書かれている、というメモ書きがあったが、それ以上のことはわからない。

以上が《四人共産団のやうに・・・》について作者から直接うかがった情報と、その関連情報である。

さて、これをもって、なるほどこの一首はその翻訳小説の存在を下敷きにして詠んだものなのだ、とわきまえて鑑賞しなければこの一首を読者はよく享受したことにはならないのかというと、僕はそうは思わない。たぶん、酒井さんご自身も、おおかたの読者がその翻訳小説の存在を知っていて、そのうえであの一首を読んでくれるだろうとは期待されていないだろう(というようなことまではうかがえなかったのだが)。この一首に関する限りは「四人共産団」という語のおもしろさ(その字面のユニークさと何やら時代がかったニュアンス)が感じられれば、それで十分なのではないかと思う。


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