「黒魚都市」/岩下志麻インタビュー

本を二冊レビューします。

・黒魚都市（18）作：サム・J・ミラー
ハヤカワの新銀背。海面上昇のため水没した世界で、北極圏に巨大な洋上建築物が建てられ、人々はそこで暮らしている。閉鎖的な階級社会で暮らす人々の前に、オルカと白熊を連れた旅の女性が現れた。

都市システムの作り込みが凄い。立体機構の上で格闘を見せる選手とか、階層をまたいでメッセージを届けるメッセンジャーとか、特有の職業が出てくるのがユニークだ。
設定は凄まじく面白そうなのだが、話が動き出すとわりと平凡なのでがっかりする。異邦人がやってきてシステムを揺さぶるなんて、過去に何百回も書かれたプロットだろう。
都市で恐れられている疫病が精神疾患というのも、納得しにくい。★★

・美しく、狂おしく　岩下志麻の女優道（21）著：春日太一
徹底的なインタビューによって、岩下志麻の女優人生を振り返る。この人の出演歴は、そのまま日本映画の歴史だ。デビューから最新作まで網羅するには、時空を貫く厖大な邦画知識が必要だ。それができるのは春日太一を置いて他にいない。
見た作品は楽しく読めたし、未見作の中で気になる作は次回の鑑賞リストに加えた。特に篠田正浩作品をほとんど見ていないので、入手できる作は見ることにした。
岩下志麻は役にずっぽり入り込むタイプで、クランクアップ後も役が抜けるのに一か月くらいかかるそうだ。野村芳太郎の「鬼畜」の演技を見ていると、うなずける。
学びの多い良書だった。春日さんの本は外れがない。★★★★