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2022年12月15日02:55

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なぜミステリーに徹した娯楽作を作らないのか、と惜しまれる日本映画です。石川慶監督「ある男」(2022)。

まず、11月18日に公開した映画なのにオールシネマ・オンラインでは2021年製作となっています。昨年に出来上がっていたのに11か月も公開されなかったのでしょうか。もっともそれだけ宣伝に時間をかけたから、平日の昼間なのにほぼ満員だったわけかも。僕は、日曜日に池島ゆたか監督から、この映画を見てよと言われたので見に行きました。

たまたま二子玉川の109シネマズで公開しており、僕には株主招待券を無駄にしたくない(今月このほか2本見なくちゃ)という大命題が存在したからです。僕はここ40年ばかり、日本映画というものを嫌っています。その理由は、大げさな芝居だったり、焦点ボケのドラマだったり、安易な勧善の対立というお粗末な展開が多いから。

そういう意味で、離婚して幼い息子とともに宮崎県の実家に戻っている里枝(安藤サクラ)が、里枝の文具店にスケッチブックを買いに来た大祐(窪田正孝)といい仲になるあたりは、さほど不自然には感じませんでした。少なくとも「おくりびと」(2008)のような、“付いてるんです”というバカなセリフはなかった。

しかし、その大祐が伊香保温泉の老舗旅館の次男坊だと名乗っていたことから、その兄(眞島秀和)が訪ねてくるのですが、その兄という野郎が尊大で気に食わない男でした。いくら弟が問題児でも、その一周忌に突然現れて(そもそも1年も連絡がつかなかったのはいかがなものか)、仮にも弟の嫁をつかまえて“遺産目当て”だとなじるなんて、安易な脚本すぎないか?

また、初っ端に林業仲間たちが、大祐のことを“犯罪者かもしれない”などと噂するのはいただけません。それをセリフとして使うなんて、説明しすぎだと僕は思う。大祐にそれほどの“陰”が感じられるのなら、里枝が好意を持つはずがないでしょう。林業仲間のうち伊東(きたろう)だけが大祐の味方をするのも単純すぎてつまらない。

さらに僕は、里枝が離婚時に世話になった弁護士城戸(妻夫木聡)が、突然物語の主役になっていく唐突感がバカバカしいのでした。ミステリーだから当然探偵が登場するというのなら、初めから探偵を描いておけよ、と思います。唐突に物語が城戸の方に動き、おまけに彼が日本国籍を取得して三代以上経つ“在日”だという設定でした。

そしてまた、刑務所へ行くと初対面の服役囚(柄本明)がいきなり、“あんた、在日だろ”と言うのも安易で、僕には不満です。だって僕には“ひと目”では分からないもの。城戸に話が移った瞬間から、ヘイト・スピーチなどのテレビニュースが流れ出すというご都合主義な展開も、僕には不満でした。

どうも昨今の日本映画は、簡単に社会的な問題を扱ってみたがるのですが、消化不良が多すぎる。なぜこの映画をミステリーとしてすっきりと描くことをしなかったのか、僕には不満でなりません。そしてまた、社会問題を扱うなら扱うで問題点の本質へ深く切り込んでほしいものです。安易に扱うべき問題ではないのだから。

この映画は上映時間が2時間1分ありました。僕にはさらに20分ほど長く感じられた。でももしかしたら、これでも初稿からは大幅に短くしたのかもしれないと今思っています。短くしたために、説明不足になってはいけないと説明部分だけは残したのではないかと思うのです。

つまりこの映画の最も大事な部分は終盤の安藤サクラのセリフ、“分かってみたから言えるのですが、知らなくでも良かった”なのです。僕はこの映画の途中、弁護士の城戸に話が移った瞬間から、そう思っていました。僕は以前から言うように、ジョン・フォードの「捜索者」が描いた“家族像”が強烈に存在しているから、血の繋がりより本人たちの意気投合が大切なのです。

だから、もっともっと里枝と大祐の恋愛に感動したかったし、里枝の息子・悠人の心の内に共感したかった。だって、それ以外の“社会問題”なんか、テレビや新聞などにまかせておけばいいのです。社会問題を扱うことが重要なのではなく、その問題が登場人物にどういう陰を落としているか、そしてその陰をどう解決するかが問題なのです。

ということで「ある男」は、本来描くべきドラマを軽んじて社会問題に色気を出してしまった残念な作品でした。そもそも、戸籍の売買を商売にしていた男が、その“顧客”たちの氏名をすべて覚えているかのような安易な作劇は勘弁してほしい。ドラマ作りが安易なら、そのドラマが扱うテーマそのものが安易さに毒されてしまうという宿命を、忘れないでもらいたいのです。

ということで、ミステリーと言うならば徹底的にミステリーとして面白さを追求してください。あるいは社会問題を扱うなら、徹底的に本質を見つめてください。二兎を追うものは一兎を得ずということわざを、決して忘れないでほしい。まずは、映画としてドラマを成立させ、それが出来てから別の次元に進むべきでしょう。

里枝だけでなく、ホンモノの大祐の彼女とか、その愛情描写がいいセンまで行きかけているのに、それに突き進まないこの映画は、本質を見誤っているとしか思えません。もっと自信を持って、恋愛映画にしてください。製作者側も算盤勘定の前に、恋愛劇を娯楽にすることに、もっと力を注いでほしいと思います。
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