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2022年12月10日03:17

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レオン・ヴィターリという俳優さんを知ってますか? トニー・ジエラ監督「キューブリックに魅せられた男」(2017)。

今僕は“俳優さん”と書きましたが、このドキュメンタリーでヴィターリは、自らの職業を“フィルムワーカー”だと語っています。“映画の仕事をしている”という雰囲気ですね。imdbには俳優でありキャスティング・ディレクターとあります。そんなレオン・ヴィターリという男が、スタンリー・キューブリックという監督に魅せられ、彼の右腕として活躍した経緯が描かれます。

ヴィターリは「バリー・リンドン」で、バリンドン卿の役を得ます(写真2右、左は使用後)。この映画は1973年の5月アタマから74年の2月末まで、撮影に10か月も時間をかけたようです。そしてヴィターリは、キューブリックが気に入らない人間が次々とクビにされていくさまを目撃したそうな。←バリンドン卿という役名が、主人公のモジリだったら笑えるなぁ。

しかしキューブリックと誕生日が同じ(年齢は20歳年下)ヴィターリは、運命的な出会いだと考えて全力で役に没頭し、キューブリックもそれを認めたのでしょう、シナリオを書き換えてバリー・リンドンとの決闘シーンを用意したそうです。そして以後、キューーブリックの右腕として、制作実務を次々とこなすことになります。

「シャイニング」の撮影が準備段階のとき、キューブリックから電話がかかってきて、“いい子役がいるらしいから会ってこい”と言われ、ダニー・ロイド少年を探し出し、撮影中は彼のお守りをしたようです(写真3で少年を抱いている)。「シャインニング」でのヴィターリの肩書は、監督の個人的な助手(personal assistant to director)となっていますね。

それからというもの、ヴィターリはキューブリックとワーナー映画の橋渡しとして、獅子奮迅の活躍をしたようです。最後はキューブリック本人が、“キューブリックは大いに怒っている”とヴィターリになりすました手紙を書いたほど。ままさにカーク・ダグラスが言うところの“才能あるろくでなし”そのものという感じがします。

しかし、先日見た「キューブリックに愛された男」のエミリオ・タレッサンドロもそうですが、キューブリックという人間にはとてつもない魅力があるみたいですね。もしかして手塚治虫がその魅力に惹かれていたら、虫プロだけでなくすべての漫画を投げ出してキューブリックに仕えていたかも(知らんけど)。そうならなくて幸いでした。

そしてこのヴィターリさん、今年の8月にお亡くなりになっていました。死因は公表されていないそうな。キューブリックの“とてつもない才能”は、こういう周囲の人々があってこその開花だったんですね。身を粉にして働く周囲の人々は、自分の家族よりもキューブリックを優先しました。

人間それぞれの生き方があるので、その生き方を云々することはできません。しかし、周囲の人々を“そうさせてしまう”人間というのもすごい。僕には到底我慢できませんし、相手もそれが分かっているからそんな接し方はしません。もし僕がスタッフについたら、30分でクビになったんじゃないかな。

ということで、決して自分からこういう世界に飛び込む気はありませんが、実に興味深い人間関係だなと感心しました。やはり“芸術”は“人と人の関係”から作り上げられるものですから、会社が算盤勘定だけで判断するのは“非道”でしかないのだと痛感します。

つまり、金を払った者が全権利を手にするという、その発想が芸術という行為を疎外しているのは明らかだから、会社には興行権と頒布権だけにとどめて著作権というものは監督に代表されるスタッフとキャスト全員に帰属させるべきだと考えます。という話はしかし、また別の話、ですね。
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