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2022年12月03日03:43

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ようやくハイビジョン画質で再見することができました。カーク・ダグラス製作・監督・主演「明日なき追撃」(1975)。

昔、ビデオ発売されたころに紹介記事を書くためビューイング・テープで見たきりです。俳優のカーク・ダグラスが監督したということで、スターの道楽かと思ったら、きちんとした映画でした。これが唯一の監督作だと思っていたら、1973年に「Scalawag」という映画を監督しているんですね。

物語は、テキサス州の連邦保安官ナイチンゲール(カーク・ダグラス)が、鉄道強盗犯で指名手配されているストロホーン(ブルース・ダーン)を逮捕しようとする場面から始まります。ナイチンゲール一行はストロホーン一味のペンステマン(デビッド・カナリー)を買収していて、一味が寝静まったところを襲って一網打尽にする予定でした。

しかしストロホーンはペンステマンの不審な動きに気づき、襲撃をかわしますが追撃を受けて逮捕される、という展開。ナイチンゲールは上院議員選挙に出馬する予定で、鉄道駅のある町に滞在して人気を集めますが、隊員たちは仕事がどうなるのか戦々恐々、という背景の面白さがかつての西部劇にはなかった妙味でした。

制作されたのが、ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任したころ。民主党支持のカーク・ダグラスが、上院議員から“さらなる上”を狙う野心家を演じます。このあとハリウッドのスターだったレーガンが大統領に選出されるわけで、ダグラスは“あなたに投票しなかったけれど、あなたは我々の大統領だ”とリベラルな姿勢を示すわけです。

もちろんこの映画は娯楽作です。上院議員を目指す連邦保安官に対して、鉄道事業に反感を持つストロホーンの抵抗が描かれるというだけ。詳しくは語られませんが、ストロホーンは蒸気機関車を動かせるわけで、その設定から鉄道会社に恨みを持つ元社員だと想像できます。

僕は大学卒業に失敗して留年したとき、最後の単位不足をすべて文学部の授業でまかないました。そのとき受けた一つが西洋史通論という授業で、南北戦争後のアメリカの歴史を学んだのでした。本当は第二次大戦に至る帝国主義時代からニューディール政策について学びたかったのですが、そこまでいかず“この続きは来季に”と終わってしまったのでした。

しかし鉄道会社が鉄路を敷設するときに、鉄路から1マイルの土地を連邦から与えられたという事実を学びました。先に開拓者として住んでいた住人や、彼らが追い払った先住民のことなどお構いなし。蒸気機関車の轟音は放牧している牛たちの脅威でもありました。だから住民の多くは鉄道に反感を持っています。

そんな鉄道会社の支援を受けたナイチンゲールが、自ら仕込んだ優秀な隊員たちを引き連れてお尋ね者たちを駆逐する、という勧善懲悪の西部劇でした。しかし、カーク・ダグラスは単なるアクションにはしていません。初めて見たときは敵役を演じるブルース・ダーンが、ダグラスより格が落ちると思っていました。その後の出世で、今なら相手にとって不足なし(笑)。

隊員の要となるクラーグがルーク・アスキュー、その次くらいの位置にいるジョン・ウェスリーがボー・ホプキンス、先住民レイノがガス・グレイマウンテン、マキャンレスがウィリアム・H・バートン、レインがルイ・エライアスという布陣でした。でもいちばん目を引くのが新聞社のボス(といっても個人商店主みたいなもの)がジェームズ・ステイシーです。

ステイシーはコニー・スティーブンスの旦那だったのですが、離婚後キム・ダービーと結婚します。さらに離婚したあとの1973年に深刻なオートバイ事故を起こして片手片足となってしまいます(同乗のガールフレンドは死亡したらしい)。カーク・ダグラスは、そんなステイシーのために、わざわざ新聞社主の役を作ったそうです。従軍中に負傷した民間人という設定です。

ほかにストロホーンに頼まれて“猛者”を集めている仲間ぺぺがアルフォンソ・アラウで、彼は監督として「赤い薔薇ソースの伝説」(1992)や「雲の中で散歩」(1995)を作っています。そしてナイチンゲールに同行している写真家がディック・オニールでした。聞いたような名前の傍役が、きちんと顔を見せているところがポイントですね(冒頭のペンステマン役など)。

そもそもタイトルバックに使われている原題POSSEのロゴマークに、“みんな投票しよう”みたいな標語があるところが面白い。ダグラス演じるナイチンゲールと、このあとのロナルド・レーガン大統領を重ね合わせて見るのも一興でしょう。
「イージー・ライダー」でヒッピーだったルーク・アスキューが連邦保安官の右腕で、「アメリカン・グラフィティ」では愚連隊であり「ワイルド・バンチ」で人質に賛美歌を歌わせてた男がセカンド・ビリングの隊員ですし(笑)。

てなわけで、わりと細部まで人間描写の行き届いた映画だと思います。モーリス・ジャールが音楽を担当しているあたりも僕にはツボ。撮影が「タワーリング・インフェルノ」などのフレッド・コーネカンプでした。大御所になったけど、最初のころは「0011ナポレオン・ソロ」専門だったんです。

ということで、見逃す手はない“味な”西部劇でした。
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