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2021年04月29日06:42

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たい焼きと少女 4

朝、ショーホームルームの後のことである。
「ワトソン君、奇遇だね」
隣の席からみゆきが声をかけてくる。
確かその席は空いていたはず。
「その席は……?」
「うん、保健室登校から久しぶりに教室に来てみたの」
「みゆきちゃんは三年生の特進クラスでなかったの?」
「あ、教科書だけ特進クラスであるがね、所属はこのクラスなのさ」
どれだけ天才のキャラなのだ……。
「ところで、ワトソン君、この教室は寒くないか」
あぁ、温水型の暖房がまだ電源が入ってなかった。
俺はパイプに温水が流れる暖房器具にスイッチを入れる。
「ありがとう、ワトソン君、たい焼きがあるのだが、授業前に食べないか?」
俺はありがたくたい焼きを頂くと食べ始める。
このたい焼きは何処で売っているのだろう?
甘さは程よくあんこもしっかり入っている。
「さて、ワトソン君とのスキンシップもしたし、保健室に行くか」
これだけ元気そうでも一年以内に死ぬのかな……。
「みゆきちゃん、俺の隣で授業を受けないか?」
ふ、少し本気で惚れたか……何時からだろう、恋愛感情が欠落していたのは。
俺はセンチメンタルな気分でいた。
「ワトソン君の隣……」
みゆきは言葉をつまらせる。教室で授業を受けるか迷っている様子である。
「ボクはね、毎日が特別なのだよ、死の恐怖ではなく、死を受け入れて、本当の生きる意味を知ったのだよ」
毎日が特別……。
それはみゆきが空を飛ぶ小鳥のように自由であったことを意味していた。
「じゃ、保健室に行くよ」
教室を出て行くみゆきを見送るのであった。
自由な小鳥を繋ぎとめておくのは不可能なのか。
そんな想いが俺を支配していた。

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