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2019年01月04日06:19

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“サスペンスの神様”の神業を堪能しました。アルフレッド・ヒッチコック監督「ダイヤルMを廻せ!」(1954)。

グレース・ケリーが主演した最初のヒッチコック作品です。「私は告白する」に続いて撮影したワーナー映画。このあとヒッチコックはパラマウントへと移ります。原作と脚本はフレデリック・ノットの舞台劇で、1952年10月29日にブロードウェーで初演されてヒットし、552回上演されたとか。ノットの原作による映画には「暗くなるまで待って」があり、同じような一幕物サスペンスですね。

物語は、テニス・プレイヤーの夫トニー(レイ・ミランド)と結婚したものの、アメリカ人のミステリー作家マーク(ロバート・カミングス)に恋をしてしまった妻マーゴット(グレイス・ケリー)が主人公です。夫に離婚を切り出そうとしたら、夫は引退して妻と暮らす方を選びます。だってマーゴットは資産家の娘なのでした。

そしてマークが妻を訪ねてきたことから、トニーは妻の殺害を計画する、という展開。同窓会の集まりがある日、賊が忍び込んで殺害するという設定に持ち込みます。妻の愛人と同窓会に出席してアリバイを作るという巧妙さ。

この物語を、基本的にトニー夫妻の自宅を中心に撮り上げます。「暗くなるまで待って」も同様に、オードリー・ヘプバーンの住むアパートの一室が舞台でした。僕は芝居色が強い映画は好きではありませんが、よくできたサスペンス劇だと、緊張が高まったまま持続するので問題ありません。だからこの映画をリメイクした「ダイヤルM」あたりは、そもそも携帯電話がある時代なのでそぐわないし、外部のシーンが多くて緊張感が拡散し、サスペンスが高まりませんでした。

今回見直して感心したのはカメラ・ポジションです。人物たちの腰の位置ぐらいの高さを基本にしていて、まずブレません。トニーが同窓生チャールズ・スワン(アンソニー・ドーソン)を呼んで殺しを持ちかけるあたりで、概略を説明したあと斜め上からの俯瞰を加えますが、それまで本当に舞台を見ている感覚でした。

前にも書きましたが、ヒッチコックは観客を“神の位置”に置いて映画を展開します。僕はその手法が大好き。だって安手のサプライズ映画は、何も見せないでいきなり脅かすんだからヒドい。学校で友人たちのいたずらに驚かされた、あのびっくり感は映画で味わうものではないと思っています。

その点、ヒッチコックは我々観客にすべてを見せているぞと示しながら、にもかかわらず“意外な展開”を楽しませてくれます。だからヒッチコックは、カメラをガタガタ動かしたり、普通なら目に入るであろう画面外の場所から脅かすなどという、バカげた映画マジックには頼りません。この「ダイヤルMを廻せ」でも、鍵をどうしたかという物語のキーの部分を、実に見事に処理しています。

最近僕は、プロとアマの違いについて考えていますが、ヒッチコックのこの映画のようなプロとしての完成品を見直すと、つくづく惚れぼれします。見ている映画は何度も観賞に耐える美術品や絵画のようなもので、細かい部分までよくできています。撮影中も余計な撮影はしないのでしょう、完成形が撮影中に見えているはず。←これこそ“プロ”の条件かも。

この映画は実数で30日ちょいしか撮影に使っていないそうです。つまり土日はきちんと休みだったらしい。まさにプロの仕事ですね。ばたばたと徹夜して映画を作るなんて、本来プロの仕事ではないと思う。だからカンヌ映画祭の一部の作品のように“48時間映画”というのは、基本的に僕は好きではありません。ま、ひとつのイベントですけど。

ところで自主映画をいろいろ紹介してくれるMXテレビ「あしたのSHOW」(毎週火曜朝4時から30分)で、83歳のおばあさん(加藤須磨子さん)が作った「私の生きがい」という作品を見ました。自分の家族をスケッチした映像なので、まさにプライベートフィルムなのですが、この出来ばえが“くろうとはだし”です。

“くろうとはだし”という言葉は、“玄人が驚いて、履物も履かずに逃げ出す”というところから来た言葉だそうで、この「私のいきがい」を見たら、自主制作映画で“監督を自認”している人たちが、かなりの割合で逃げ出さないといけない、というほどの出来ばえでした。何より、ヒッチコックが「ダイヤルMを廻せ」などで見せているななめ上からの俯瞰映像がきちんと使われていて、これには驚きました。

ということで、プロの仕事というものを見ていると安心できます。なのにジョン・マクノートンの「ユージュアル・ネイバー」のような、“常識をぶち壊す”手法をプロが行う。方法が悪いのではなく、出来ばえが伴わないからダメなわけです。さあ、自主制作映画の監督さんたち、「私のいきがい」以下の作品は作らないでくださいね(笑)。
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