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2015年02月09日10:10

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フォルムの実際 19世紀 小休止

フォルムの実際 一休み
 日本人には、ステレオタイプの油彩画のイメージが擦り込まれていて、そのイメージが、それとなく印象派と言う事になる。油彩画を描く時に溶き油を使わないで、出した絵の具をそのままキャンバスに塗る。ゴッホは、絵の具をチューブから直接筆に乗せて描いていた、と言うような逸話に感動して真似をしてみたりする。実際、ゴッホは、そうする事もあったのだろうと思われる。油彩画を描いていて興が乗ってくれば、絵の具をパレットに出すのも、もどかしく感じてしまうのだろう。印象派の画家、及び、ポスト印象派の画家達が、現代日本で一般に使われているような画材を使っていたかと言うとそうではなかったようだ。ゴッホは弟に頼んで特注の絵の具を送ってもらっていた。顔料粒子の大きさまでも指定できる専門家用の絵の具だ。顔料の粒子が大きくなると色が鮮やかになり、粒子が小さくなると落ち着いた色味になる。同じ顔料でも粒子の大きさの違いで発色に差が出るのだ。現代でも顔料粒子の大きさを指定できる専門家用絵の具が存在する。キャンバスも半吸収地で、ある程度溶き油を吸うようなキャンバスを使用していたようだ。実際、油性キャンバスだとキャンバス地がオイルを吸わないので、ある程度絵の具を重ねて絵の具層の厚みが出ないと良い発色が得られない傾向がある。キャンバス地がオイルを吸うか吸わないかは、思われている以上に大きな影響が出てしまう。そのため、描法も変わってくるのだ。
 モネの作品を沢山見て、時代に分けて分析しているのだが、言われているような印象派の特徴は、モネの作品にはなかなか現れない。モネは筆触分割なる技法を本当に使ったのだろうか、使ったとしたらいつの時代から使い始めたのだろうか。印象派展に出品する年代、モネは色彩を押さえた作品を多数描いている。印象派らしい色彩を多用した作品の方が少ないのだ。今までで分かった技法を整理すると、
 モネは、グレーの有色下地(インプリマトゥーラ)を施したキャンバスを使っている。これは古典絵画の影響だろう。古典絵画を描く場合、有色下地を使う場合が大変多い。比較的暗い色の下地から、明るいグレーの下地、そして、ランダムに塗られた下地等、画家によって様々だ。古典絵画系の画家の場合、絵の具層の下層部に補色を置く人もいる。色に深みを出すためだ。これも、一種のグレー効果で、グレーの下地を置く場合と狙いは似ている。グレーと言っても、ホワイトとブラックを混ぜただけのグレーではなく、そこにいろんな色を混ぜて、グレーの色味をいろいろ変えている。良く使われるのは、少し褐色系の色を足すやり方だ。グレーに少し褐色系の色を混ぜる。同じ褐色系でも、ロー・アンバーやロー・シェンナは緑系。バーント・シェンナはかなり赤味が強い。ライト・レッドは赤として使えるぐらいの赤味がある。ライト・レッドは、日本で言うベンガラで、鉄の赤錆色だ。この色を下地に使う人もいる。シルバーホワイトとの混色もOKなので、渋いピンクになってなかなか綺麗だ。唇にライト・レッドを使うと自然な唇の赤になる。実際の口紅にも、カドミウム・レッドのような鮮やかな赤は使われていないのではないだろうか。化粧品の色を良く観察してみて欲しい。意外に落ち着いた色が多いし、ファウンデーションには褐色系が多い。実際の日本人の肌色は、黄色人種と言われるだけあって、褐色味が強い。そこにほんのり赤味がさしている。モネは、褐色が少し入った明るめのグレーを下地として良く使っている。グレー地の上に色を乗せた場合、色がやや沈んで、色に深みが出てくる。人物の肌の場合、グレー地だと肌の色がくすんでしまうので、順光部には、ホワイトを厚塗りしてグレー地の影響を抑えるような描き方をしている。影の部分は、グレーの影響が出るように色を薄めに置き、明るい部分は、ホワイトを置いてから色を乗せたり、色を厚めに塗る事で彩度を確保していた。グレー地だと、色が押さえ気味になってしまうので、強い発色が必要な場合は、工夫が必要になる。モネも、この絵の具の厚さに気を使っている。
 割とビビッドな色を乗せる場合も、下地のグレーが覗くように置いている。グレーが覗く事で、画面全体の調和が取れるようになっているのだ。色彩を活かすためには、それを引き立てる脇役の存在が欠かせず、脇役の使い方が非常に重要になる。モネの場合、このグレーの使い方が抜群に上手い。グレーを使う事で画面も明るくなり、ビビッドな色が氾濫しても色彩の調和が取れるようになる。派手な色ばかりに目がいきがちだが、実際に絵画制作で重要なのは、そこではない。グレーの使い方をテーマにして、もう一度モネの作品を見直してみると得られるものも多いのではないだろうか。モネはあまりにもさり気なくグレーを使うので気付かない人もいるだろうと思う。
 このグレーは、印刷にも非常に重要な意味があった。色の3原色による混色で様々な色を表現するのは印刷のやり方だった。カラープリンターを考えれば分かりやすいだろう。色の3原色とは、シアン、マゼンタ、イエローの3色だ。シアンやマゼンタと言われてもほぼ馴染みがないだろうと思う。油彩画を描いている人が、シアンを使うとかマゼンタを使うなんて言うのを聞いた事がない。そもそもそんな色は油絵の具にはない。光の3原色(レッド、グリーン、ブルー)と色の3原色を混同していて、頓珍漢な説明をする人もいる。パソコンのRGBカラーが光の3原色だ。色の3原色の場合、CMYKと言う。Cがシアン、Mがマゼンタ、Yがイエロー、最後のKは、KEY PLATEの略だ。Kはブラック、日本では墨(スミ)と言う。実は、印刷の場合、紙の白も利用されるので、CMYKだけではなく、そこに紙のホワイトのWが入る。黒インクのドットと紙の白でグレーが表現されるようになっている。これが色の3原色+墨のCMYKだ。つまり、色の3原色だけでは綺麗で自然な発色は得られないのだ。初期のカラー印刷では、3色で印刷されていたのだが、ぼんやりした、はっきりしない印刷になってしまう。そこで、ブラックを使うようになった。初期の段階で、色の3原色だけでは自然な色味は再現できない事は分かっていたのだ。染め物でも同じようなやり方が使われる。濃紺に布を染める場合、下染めとしてまずは布を黒く染める。その上から紺色を上染めするのだ。すると深い濃紺の色に染め上がる。黒に染める場合も、黒の染料だけで染めるとグレーになる。そのため、下染めで他の色に染め、その後黒く染めていく。工芸の蒔絵でも同じ、金蒔絵を施す部分に、色漆で色をまず乗せ、その後、金を蒔く。光の3原色と色の3原色の違い、色の発色の仕方の特徴を良く理解する必要があるだろう。特に油絵の具では絵の具の積層を頻繁に行なうので、下に置く色と上に乗せる色との組み合わせで発色や色味がかなり変わってくるのだ。3原色による筆触分割で全ての色を表現できるなんてのは妄想だ。やはり白と黒、つまりグレーをプラスする必要性がある。グレーの明度、そして、グレーを表に出すか、下層に使うか、いろんな方法がある。古典絵画で使われるグリザイユもそうだ。色彩で明度変化を正確に描写するのは難しい、そこで、下層にグレーで明度変化を描き、その上に色彩を乗せていく。人物画を描くだけでなく、いろんな描写にこの技法は使える。下層にグレーがあってもその上に色を乗せればグレーだとは思われないが、色彩には明度変化が現れる。混色によって明度変化を描くよりも楽にしかも正確に明度変化を描く事ができる。こうする事で、バルールも崩れ難くなるのだ。モネの使っていた技法は、グリザイユとは言えないが、グレーとの組み合わせ方から見れば、グリザイユの技法を参考にしていたのではないかと思われる。筆触分割を否定するつもりはないが、それだけで絵画が成立しているとは思わない方が良い。いろいろ具体的に調べていて、モネの絵画には浮世絵の影響がさほど感じられないのも意外な発見だった。浮世絵の影響は画家によってもかなりの差があると言う事だろう。




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