マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーの共同監督コンビによる海洋戦争映画です。第二次大戦初期の1939年12月に、イギリスへの物資を運ぶ貨物船を狙っては沈めるという活躍をしていたドイツ小型戦艦シュペー号を、イギリス海軍が必死になってやっつけようとする物語。パウエルとプレスバーガーの作品群で、最も興行的に成功した映画だということです。←日本での最大のヒットはバレエ映画「赤い靴」ですが、この「戦艦シュペー号の最後」は、バレリーナのタイツ姿よりもずっと僕の記憶に刻み込まれています。
冒頭、シュペー号に沈められた貨物船アフリカン・シェルのダブ船長（バーナード・リー、写真２左）がシュペー号のラングスドルフ艦長（ピーター・フィンチ、写真２右）と会う場面がいいですね。どちらも紳士的です。後に「００７」シリーズにＭとして登場して、僕にとって忘れられない英国俳優の一人となったバーナード・リーですが、この映画で見ていたんだと納得。一方、髭を蓄えたピーター・フィンチは、後の彼とは雰囲気が違い、今見なおしても“ほんまに彼か？”という印象です。
僕はこの物語を、子供向けに書きなおした学習雑誌の読み物で知り、その面白さに夢中となりました。だから映画が公開されたとき、親にせがんで連れて行ってもらったしだい。でも今見なおしても、英国海軍の３隻の船が、どれがどれか区別できない。おそらく先に物語を読んでいたから、映画の描かない部分まで補って見ていたのでしょう。
このころ南米の地理に詳しくなかったので、この映画のおかげでラプラタ川という存在を知り、ウルグアイという国があること、モンテビデオという港がブエノス・アイレスの近くにあることなどを覚えました。だから映画を見ることって勉強になるんです。英語ではプレート川となっていますが、これは誤訳だそうですね。プラタというスペイン語にはもうひとつ“銀”という意味があるそうで、ラプラタ川は“銀の川”というのが本来の意味だそうです。これも勉強になった。
この映画が撮影を開始したのが1955年の12月。つまり16年後です。僕がこの映画を見たのが10歳の時ですから、16年前というと大昔。しかし考えたら、今9.11の出来事を思い返すのと似た位置にあるわけです。だから当時は詳しい事情を知る人たちがいっぱいいたし、観客にだってこの海戦をラジオで聞いて知っていた人たちが多かったでしょう。そういう意味で、物語で知っていた僕以上に、描かなくても了解される部分は多かったに違いないと考えます。少なくとも僕のように、シュペー号の艦長は自決しなかった、と“誤解”する人はいなかったかも。
シュペー号を発見する水夫役がドナルド・モファットで、これがデビュー作のようです。先日「ミネソタ大強盗団」で若い姿を見たばかりなのですが、それ以前の彼にまた出会ってしまった。そしバーナード・リー同様、シュペー号の捕虜となっている人々の中に、後に監督として活躍するジョン・シュレジンジャーがいるようです。そして「ドリトル先生不思議の旅」などのミュージカル・スター、アンソニー・ニューリーも同じような役で出ているとか。こりゃ写真をキャプチャーしないと。
モンテビデオからラジオが中継する舞台となった酒場のおやじがクリストファー・リーでした。酒を注文しないなら出て行けと迫り、中継スタッフから酒代をせしめます。中継スタッフの方も、“注文してやるから、仕事が完了したらボトルで酒をよこせ”と、しっかりしていました。
シュペー号には11インチ砲があり、英国海軍の３隻には９インチ砲しかない。この対決って、そのまま「フューリー」の戦車戦ですね。さすがに船ですから、一発あたって撃沈はないけれど、そのやりとりは手に汗握るものがありました。シュペー号が英国海軍の３隻を判別しきれていなかったという事実が最後に明らかになります。そういうこともあったんだろうなと納得して見ました。
子供のころは、紳士的な戦いというものに感激したものですが、そんな“ルール”が有効だったのは開戦当初だけなのかも。実際シュペー号の自沈が、国家に対する反逆行為だとされてしまいます。しかしこの映画はそこまで描かない。だからこそ海戦アクションの秀作として語り継がれていくことでしょう。皮肉なものです。
なおシュペー号を“演じた”のは米国海軍のセイラム号（写真３）で、しかし米国海軍がナチスドイツの旗を掲げることを許さなかったので、そのショットだけは別の船だそうです。
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