mixiユーザー(id:20556102)

2023年08月27日05:53

188 view

酒井佑子の歌(2)

牛は死に豚は死にけり飢ゑ死ぬるものらの列にわれを加へむ  (「短歌人」2011年9月号)

・・・短歌人横浜歌会の時だったと思うが、酒井さん自らがこの歌に言及されたことがあった。ある方の歌で、福島第一原発の周辺住民が避難した後、あたりに放置された牛や豚の映像を詠まれたものがあった。あまりに残酷な映像なので、その後、メディアが自主規制したのか、あるいは東電あたりから圧力がかかったのか、その映像は一切放映されなくなった、というような話になった時に、酒井さんが、私もその映像を見ました、あのものたちがあのようにして死んでゆくなら私も同様にして死ぬべきだと思って、「牛は死に豚は死にけり・・・」の歌を詠んだのです、と言われたのだった。酒井さんはとてもやさしくやわらかい感じの方なのだが、こうしたことを言われる時には何の迷いもなく毅然としてこんなふうに言われることがあって、僕はそのお話をうかがっていてちょっと涙ぐんでしまったのだった。

『庭の時間』の中に在りしが夕まけて立ち上がりたり鳥雲に入る  (「短歌人」2012年1月号)

・・・「鳥雲に入る」は春の季語。春になって渡り鳥が雲の彼方に去ってゆく、の意。「夕まけて」の「まけて」は「設けて」。「〜〜を心待ちにして」「待っていた〜〜の時になって」の意。『庭の時間』は、神代勝敏さんの歌集のタイトル。ふと『庭の時間』のページから目を上げれば、はや夕暮れ時はやってきていてる。立ち上がって見上げれば渡り鳥は雲の彼方に去ってゆく。優雅でありながら一抹の寂しさをも感じる一首、と読んだ。

忘れつつ手ばなしにつつ在り経るになほ待てる何ありてか明かる  (「短歌人」2012年2月号)

・・・この一首より装飾的なフレーズを消去すれば、要するに「在り経るに明かる」と言うているのである。ありふるにあかる。若い者はこんなふうに思うことはないだろう。若い読者にはこの一首はピンと来ないかも知れない。ありふるにあかる。いいなあ。ありふるにあかる。


【最近の日記】
酒井佑子の歌(1)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985782528&owner_id=20556102
最近の「ちきゅう座」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985769542&owner_id=20556102
「短歌人」の誌面より(179)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985734113&owner_id=20556102
4 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年08月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031