なーんもない日曜の、しょうもない雑感

　朝日の夕刊一面右隅に「素粒子」という時事短信があって、一応目を通しているのだが、イラッとすることが多い。「上から目線」で、かつ「（政権を）茶化す」という2つが組み合う時である。昨日は「ス」「ガ「シ」「ュ」「シ」「ョ」「ウ」「チ」「カ」「ラ」「ツ」「キ」「タ」という文字を文頭に置いて、「筋の悪い延命策が裏目で」「頑強に見えた政権が崩壊」「新型コロナに打ち勝てず」……というスガ批判をしている。退陣決定に対してこういうお遊びをするインテリ臭さが嫌い。しっかりとした文章で「決してお疲れ様などと言いたくない。なぜならば……」と社の姿勢を示したらいいのに、と思う。
　今日5日は終日曇だったが、1時間ほど陽が差す時間があった。
　午後3時ちょうど、電話をしてからクルマで近くのガソリンスタンドへ。スタンドの店員さんに相談があったので行く前に電話したのだが、彼は別の店へ異動になって店から消えた。親切で腕がいい人だっただけに残念だ。
　彼ご指名でオイル交換を頼むつもりだった。
　しかし、20数年来行きつけのガソリンスタンドで、店長とも顔見知りなので、給油をしたあと、店長に相談することにした。
　できるだけ費用を抑えたいので、ごく一般的なオイルでいいと言うと、「やめたほうがいいです。RR（エンジンが後ろにある）でオイルの劣化が一般車より激しいので」と言われ、さらにオイルフィルターの交換も同時にとお願いすると結構な値段を提示された。ああ、勘弁してよねと思うものの、自分でオイル交換をする気がないため、泣く泣くフィルターを取り寄せしてもらうことになった。たかがオイル交換なのに1万円を超えそう。
　灯油を1ポリタンク買って、帰宅。
　スニーカーを脱がないままラズリを連れて散歩へ。近所の友人に出遭ったのでオイル交換の件を話すと、「オートバックスのほうが安い、と割り切って行ってみれば？」と言われたが、数千円を倹約するため顔も知らない作業者に委ねるくらいなら、GSの店長にやってもらったほうがいいかな。私の車種をこれまで幾度も扱ってきたらしいし、既にフィルター発注を掛けちゃったし（日曜ゆえ、メーカーには明日発注であるけれど）。
　夕飯前、日曜日に挟み込みの別刷り紙「Globe」をぱらぱらめくっていると、「世界の書店から」というページで、フランスのベストセラー（エッセイ部門）が紹介されていた。1位にエドガール・モランのエッセイ集！　100歳を迎えた社会学者が激動の時代を振り返るエッセイとのことだ。モランの名はあまり知られていないが、社会学では必読の『オルレアンのうわさ』という名著の著者として日本では知られている。

＜1969年5月の初め、ひとつのうわさがオルレアンで広まった。幾人かの女性が行方不明になっているという。ユダヤ人の商人たちが、ブティックの試着室のなかで薬物をかがせるか注射するかして、地下の通路を経て、外国の売春街へ攫っていったというのだ。この月の末に至る間にうわさは尾ひれをつけられ、この「犯人」たちを威嚇するような性格をもつ。ユダヤ商人の多くは、ある狂気が彼らを包囲するのを知る。
じっさいには、何ごとも生じていなかった。だれ一人として、オルレアンで行方不明の女性などいなかった。すべてはロから耳へと伝えられ生じたのである。とてつもなく愚かしく、グロテスクで、不名誉なこのうわさは、かけめぐり、膨張し、オルレアンを揺り動かす。パリから100キロ離れたところで中世が出現する＞　みすず書房のHPより

　学生時代、この本を読んだ時、関東大震災での朝鮮人虐殺を思った。恨んだ。怒った。「不逞鮮人が井戸に毒を盛った」「暴動を起こそうとしている」「すでに朝鮮人たちが家々に火を付けまわり物を盜んでいる」
　オルレアンのうわさはフランスに限ったことではなく、20世紀に限ったことでもない。今まさに、世界のあちらこちらでトンデモナイ都市伝説や陰謀論を信じる人々が増え続けている。
　うーん、まだモランって生きてたんだ、と私は驚き、さらにこういうエッセイ集がベストセラーになるって日本じゃ考えられないよな、とも驚く。日本の店頭に並んでいる本って、ビジネスマン向けに書かれた啓蒙書、アンチエージングやダイエットの指南書、投資術、新型コロナ関連本ばっか。あ、佐藤愛子のエッセイ集がここ5年、「これが最後のエッセイ集」と謳いつつ毎年新刊エッセイが出ていて、いつのまにやら98歳になられている。寂聴さんも同様、執筆活動は旺盛で、本が出るたび新刊平台に積まれていたなぁ。
　モランのエッセイ集は当分翻訳本など出ないだろうから、図書館に行って『オルレアン』を借りようかと思った。