23日午前7時半起床。
身体が疲れ過ぎて、あまりよく眠れなかった。枕が自分には合わなかったことも一因かもしれない。
ホテルを選んだ理由のひとつが朝食で、比較的安い宿泊料にもかかわらずバイキングだった。
朝食会場に行くと、テーブルは8割方埋まっていた。バイキングの場合はこれくらいが理想形で、満席でも少な過ぎても料理の欠品がある。
ただ私は少食ゆえに、卵焼き1個、ウインナー3本、筑前煮程度のおかずとサラダ、そして朝カレー少々。コーヒーだけは2回おかわりをしたので、自分的には満足できた。
9時半、チェックアウト。駅前のバスターミナルへ向かった。
お城へ行くバスと中古車屋近くへ行くバスとは隣り合っている。
ちょっと迷ったのち、中古車屋へ再度行くことにした。
2点ほどご主人に確認したいことがあった。ということは、俺、返事しだいで買うということか。まさかの展開である。繰り返し、見るだけ、乗り込むだけ、と言っていたではないか。
バスは15分くらいで中古車屋近くのバス停に着いた。降りてiPhoneを取り出し、グーグルマップで中古車屋の住所を打ち込んだら、徒歩3分と出た。案内に従って歩き始めたらすぐに着いた。
奥さんが外でトマト苗の水やりをしているところだった。
こんにちは、と声をかけたら、「あら、早いわね。お城はもう行ったの?」と訊く。
いえ、お城には今度来たときにでも行きます、と口が勝手に答えた。
えええっ、またここに来ますっていう意味は、買いますってことじゃんか。
事務所に入ってご主人と話をした。私の質問に対して、彼は誠実に受け止め、答えた。
15分後、彼は用事を済ませて40分後に戻って来ます、と言ってどこかへ行ってしまったので、私はそれまでここにいて、駅まで送ってもらうつもりになった。
昨日はわくわく感が溢れ過ぎて車の細部まで見ていなかったので、もう一度、真剣に見ることにした。
たとえばタイヤの製造年月日だ。
2023年製、ブリヂストンのエコーピア。なんだ、真新しいじゃんか。これなら履き替える必要はないな。
ナビをあれこれいじって操作方法がだいたいわかってきた。いいデザインと機能。さすがに自分のiPhoneとナビをBluetoothで接続こそしなかったが、見るだけ触るだけの原則がだんだんと収まりつかなくなっている。
きっちり40分後、ご主人が帰ってきた。
事務所で彼と話そうとしたとき、奥さんが「お昼ごはんを作るから食べて行く?」と私に問いかけた。
このひとことで私は追い詰められ、イエスと言おうがノーと言おうが、どちらにしたって村上春樹の比喩遣いに似たはぐらかししかないように思えた。
今日のところはこれでお暇しますが、お察しください。
すると、彼女はおもむろに車検証をコピーして私に渡し、車庫証明の用紙も一緒にクリアファイルに入れ、「高い買い物なのだからゆっくり考えたらいいですよ」と。
グンゼの半袖シャツのような下着風を着ているご主人に駅まで送ってもらった。車中、ずっと無言だった。が、駅近くになって、小さな声で「明日、あらためてお電話をしますが、買います」と言ってしまった。
ご主人も私に合わせるかのように小さな声で「ありがとうございます。もしご縁があるなら、精一杯仕上げますからどうぞご安心ください」と言った。
彼と別れて、駅の観光案内所へ行った。近くで味噌カツを食べられる店を紹介して、とお願いしたら、分厚い地図をくれて、店名を挙げてくれた。さらに「郷土料理店があるのでそこもおすすめしたいです」と。
地図を頼りに歩き始めたのだが、道に迷った。高校生の集団がそばにいたので、彼らを呼び止めて訊いたら、一緒になって案内してくれた。
わずか数分だが、いろんな会話ができた。
「今日は木曜日なのに、なんでこんな時間、駅ビルにいるんだ?」と訊いたら「今週はテスト期間なんです」と。
「いやなもんだよな。ぼくは50年前に高校を卒業したんだが、いまだ恐怖だよ」と言ったら、「おじさん、40歳くらいだと思ってたあ。いったいいくつなんだよ」と5人の高校生たちは笑う。
結局、「くらうど」という郷土料理店に入って、「郡上けいちゃん焼き定食」なるワケがわからないランチメニューを注文。野菜と鶏肉の豆味噌炒めで熱した鉄板で音を立てながら出て来た。味噌汁は当然、赤味噌で、おつけものと小鉢。ごはんは白ごはんと雑穀米が選べたので、雑穀米にしたのだが、このごはんが美味しい!
食べて在来線に乗って、名古屋ではなく豊橋まで行った。そこから新幹線。900円ほど安くなる。ビンボー旅って楽しいと思えば楽しい。
濃尾平野は麦と米の二期作をするのか。
麦秋の田んぼと田植えが終わったばかりの田んぼが隣り合った風景は面白いし、トンネルを出たら一面淡い緑の山が目の前に迫って感動したり。
豊橋でこだまの自由席。一駅走っては通過待ちで5分くらい停車するというのろさは腹立たしいものの、自分だって思考能力がのろくなっているのだからお似合いさと自嘲する。しかし、料金はまったくかわりがない。東京大阪を中心に設計されたシステムというのはまさに資本主義の醜さを象徴しているのだが、都心の利用者はこんなエゴイズムなどまったくわかっていないだろう。
ああ、またやってしまった。
次回はあの車に乗って鎌倉まで帰るのかあ。
同じ間違いをふたたびおかしてしまった。
ログインしてコメントを確認・投稿する