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2015年05月12日22:24

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沈むフランシスについて

 久しぶりに正攻法で書かれた文学を読むことが出来た。新人が書いた小説の場合、アイデアが巧みであるか、時代に則してしるか、書き手が脱がしてみたいような美人(巨乳)か、という小説がほとんどだ。アイデアが巧みというのはトンデモない発想、時代に則しているというのは流行と添い寝して大衆受けをねらうというあざとい「商法」を指す。
 松家仁之は54歳でデビューし、その処女作『火山のふもとで』で読売文化賞を受賞した、と経歴にあった。その第2作『沈むフランシス』は偶然、ブックオフで手にして、カバーと帯の文言だけを頼りに「ジャケ買い」で得た本だった。読み始めてすぐに、これは滅多に出会えない作家と小説だ、と感じた。文章から透けて見える著者の豊かな感性と構成力が、凡百の作家が多い中、頭一つ、否、3馬身も4馬身も抜けている。200ページ足らずの小説なのだが、途中から読むのがもったいなくなった。
 一回で食べきれる量のチーズケーキをもらった。試しにナイフで小さく切って試食したらあまりに美味しくて、3日の間、少しずつ少しずつ食べた、という感じだ。 
 昭和30年代に廃坑となった炭鉱があって、そこではいまなお坑内にダイヤモンドの原石が落ちている。毎年、5人10人とダイヤをみつける者がいて、なかには1カラット超の物を拾って宝石店に持ち込み、1千万円を手にした若者もいたという。一言一句熟読の末読了した直後、(松原仁之に1千万円の価値があるかどうかは置いとくとして)、ダイヤモンドを偶然拾ったいうような、望外の喜びを持つことが出来た。
 その間、群ようこのエッセイ集を読んだり、尊敬する三山喬さんが震災と原発事故で家と自分自身まで失ってしまった村人を真摯に追いかけたルポ『さまよえる町』を読んだりして、結末を迎えるのを一日延ばしにしていた。なんて楽しい日々。また偶然に出会えるかなぁ、優秀な作家に。
 日記を書く前、誰かとこの作品を語り合いたい気持ちから、Amazonの口コミを順々に読んでみた。16件の投稿は、褒めている人半分、貶している人半分だった。このような感想結果は寂しい限りだ、趣味趣向ゆえ仕方ないとは言え。
http://www.amazon.co.jp/%E6%B2%88%E3%82%80%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9-%E6%9D%BE%E5%AE%B6-%E4%BB%81%E4%B9%8B/dp/4103328126/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1431435885&sr=8-1&keywords=%E6%B2%88%E3%82%80%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9
 単行本のカバーをめくると、一般的に表紙はタイトル+著者名が印刷されているか、せいぜいがカバーをそのまま一色印刷したデザインなのだが、この本は違っていた。舞台となった北海道のオホーツク海に注ぐ川沿いの村(架空の場所である)の雪景色をイメージしたモノクロ写真が載っていた。カバーは犬の顔の大写しで、表紙は冬の森。なんだかえらく対称的で、これはこれで編集者の思い入れがずいぶんと強かったのだろう、と素直に受け取りたい。
 5月なのに台風が上陸し、この時間、大雨と強風で町も裏山もうねってる。どこか遠くから救急車のサイレン音が聞こえてきた。この小説でも台風がモチーフとなって一挙に展開が動く。なんというこの偶然!
 本棚に『沈むフランシス』を面陳したいくらいな気分。読売文学賞を受賞したデビュー作を買って読もう。
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