競馬はもちろん馬が主役のスポーツだ。だから、ディープインパクトとかオルフェーブルとかジェンティルドンナを間近で見ようと思ったら、それなりのお金と時間と覚悟が必要だ。それは野球のダルビッシュやサッカーの本田やテニスの錦織を近くで見たいという時と同じだ。
だけど騎手は違う。たとえば土曜日の第2レース、3歳未勝利戦にもトップジョッキーは騎乗する。ガラガラのパドックの最前列にいれば、ボクからほんの5メートルにも満たないところを彼らは通っていく。声を掛ければ視線を合わせてくれる騎手もいる。
ボクの競馬の師匠である青井さんは教えてくれた。最後の直線のたたき合いでは応援する馬の騎手の名を呼べと・・・・・数字を叫ぶやつなんて論外だと・・・・
何度叫んだだろう。「ゴトー!!そのまま粘り切れー」「外から持ってこーい!!ゴトー」
その後藤騎手が死んだ。自殺だそうだ。
日本では1年で何人が自殺するのだろう・・・そんなデータなど知るわけもないし、知りたくもない。
それはこれまでのボクの人生において、家族や親せきや友人、学校・職場の同僚先輩後輩で自殺した人など一人もいないからだ。さらに言えば、名のある人が自殺したとのニュースを聞いても、それが農林水産大臣だったり、銀行の頭取だったり、名前は知っていても特に関心のなかった芸能人だったり・・・・・・
つまり、これまでボクの人生と大きく関わった人の自殺に接したことがなかったのだ。
職場でこのニュースを聞いた同僚が言った。何も自殺することなんてないのにねって・・・・
殴ってやろうかと思った。だけど相手が女性だったからやめた。
何がわかるんだって、競馬も見たことがない人間が、まったく関わりのない人間が・・・・
ボクだってわからない。わからないから悔しいんだ。わからないくせに誰でもわかるようなことをわかったような顔して言うなって・・・・・
金曜日のボクはいつも東スポと日刊ゲンダイを買って2時間近くかかる帰路につく。いつもはワクワクしながらうんちくを述べる予想記事を読み、馬柱のデータから自分の予想を組み立てていく。しかし、今日はもちろんそんな気にはなれない。
東スポには中山メインの総武S、7番キングヒーローの騎手は横棒が引かれていた。しかし、日刊ゲンダイには後藤の文字が・・・・・
「中山第11レース、7番キングヒーロー号の騎手は落馬負傷により後藤浩輝より柴田大知に変更となりました」
このようなアナウンスは何度も聞いてきた。落馬負傷なんて何度も克服してきたじゃないか。1年以上ものリハビリを経て南部盃でエスポワールシティで優勝したじゃないか。
その後の落馬でもまた半年で競馬場に戻ってきたじゃないか。
2週間前のダイヤモンドSで落馬した時は翌日にはすぐ2勝して見せたじゃないか。
でも・・・・
明日の中山第11レースの総武S・・・・キングヒーローの後藤浩輝から柴田大知への乗り変わりは落馬負傷ではない。
もう、後藤は競馬場には帰ってこない・・・・・ウイニング競馬の美浦支部長でもない。競馬好きのお笑い芸人と話を合わせてボクたちを楽しませてくれた彼はもういない。
なんでこんなことになったのか。それを追及する意味もない。
悲しいとかご冥福をお祈りするとか、そういうことすらボクには浮かばない。
ただ、ただ・・・・
ただ、ただ・・・・・
悔しいだけだ・・・・・・・
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