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2023年11月01日19:47

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10/29 激動の時代 幕末明治の絵師たち@サントリー美術館 

この秋楽しみにしていた展覧会の一つ。
千葉市美術館、板橋美術館、それに府中市美術館に委託の滴水軒記念文化振興財団からの出品が多いので、各美術館で結構見ている作品が多いのではないかと思う一方、あの時代の、奇想天外・摩訶不思議な洋風絵画を沢山見られるのかと思うとやはりワクワクする。

デリケートな作品が多いため、写真撮影は不可、照明も暗く、作品リストは小さな文字で見づらく、ほとんどが前後期入れ替え。
マニアックなテーマだから、きっとがら空きと思っていたらそうでもなかった。
一言で言うと面白かった、安田雷洲という絵師・銅版画家を知ったのが最大の収穫か。予定にはなかったが、後期もまた見たくなった。

https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2023_4/index.html
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江戸から明治へと移り変わる激動の19世紀、日本絵画の伝統を受け継ぎながら新たな表現へ挑戦した絵師たちが活躍しました。本展では幕末明治期に個性的な作品を描いた絵師や変革を遂げた画派の作品に着目します。
幕末明治期の絵画は、江戸と明治(近世と近代)という時代のはざまに埋もれ、かつては等閑視されることもあった分野です。しかし、近年の美術史では、江戸から明治へのつながりを重視するようになり、現在、幕末明治期は多士済々の絵師たちが腕を奮った時代として注目度が高まっています。
本展では、幕末明治期の江戸・東京を中心に活動した異色の絵師たちを紹介し、その作品の魅力に迫ります。天保の改革や黒船来航、流行り病、安政の大地震、倒幕運動といった混沌とした世相を物語るように、劇的で力強い描写、迫真的な表現、そして怪奇的な画風などが生まれました。また、本格的に流入する西洋美術を受容した洋風画法や伝統に新たな創意を加えた作品も描かれています。このような幕末絵画の特徴は、明治時代初期頃まで見受けられました。
社会情勢が大きく変化する現代も「激動の時代」と呼べるかもしれません。本展は、今なお新鮮な驚きや力強さが感じられる幕末明治期の作品群を特集する貴重な機会となります。激動の時代に生きた絵師たちの創造性をぜひご覧ください。


第1章 幕末の江戸画壇
本章では、19世紀の江戸において二大流派であった狩野派と文晁一門を中心に、数多くの絵師たちが腕を競った幕末の江戸画壇の一端を紹介。

狩野一信《五百羅漢図 第二十一、二十二、四十五、四十六、四十九、五十幅》
あの増上寺の五百羅漢図に再会。再会といっても、全部で百幅あり、かつて増上寺で見たのがどれだったか定かではないのだが。
画像は第二十一と二十二の「六道地獄図」、描き込みがすごく、迫力も満点。これじゃ百まで続かず死んじゃうの当たり前だな。
東博蔵のミニサイズ《五百羅漢図》もあり。
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狩野一信《布袋唐子図》
これは板美で見た。水面に映る布袋さんの顔にも注目。
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狩野了承《二十六夜待図》
二十六夜の細い三日月に阿弥陀仏、勢至三尊が現れると言う。大気表現による遠近法が幻想的。
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渡辺崋山《坪内老大人像画稿》
展示では、筆を持っている右手が貼り紙なので外されて掛け軸の欄外(?)に貼られていた。下には、違う角度で筆を持つ手が描かれている。本作は見たことがないけれど、推敲を重ね何本も筆を足す画稿を見る方がはるかに面白い。
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第2章 幕末の洋風画
江戸時代の洋風画となれば、中期に蘭学の流行とともに西洋画法を取り入れた司馬江漢や亜欧堂田善を思い出す。秋田蘭画の小野田直武もまた有名だ。その司馬江漢、亜欧堂田善に続く者として、幕末期、北斎門下の安田雷洲は知らなかった、いや、忘れていた。

安田雷洲《鷹図》
この絵を見て思い出す。すみだ北斎美術館「筆魂」展で確かに見た、あまりのインパクトに度肝を抜かれたっけ。↓
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1978655299&owner_id=2083345
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安田雷洲《赤穂義士報讐図》
なんとも不可思議な感じのこの絵、実は元絵があって、それが聖書の挿絵「羊飼いの礼拝」↓
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ランタンは蝋燭に、聖母マリアが大石内蔵助、マリアに抱かれている幼子イエスは吉良の首、取り巻く羊飼いたちは義士に置き換えられている。キリスト教徒が見たら卒倒しちゃうね。
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安田雷洲《英仏攻防戦図》
世田谷代官屋敷の棚の襖絵。幕末には、ナポレオンやアヘン戦争など西洋の合戦図が流行ったらしい。武家屋敷で武士が西洋の戦い図を眺めていたとは…。
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不可思議な絵ばかり紹介したが、圧巻だったのは安田雷洲の銅版画。《東海道五十三駅》は手のひらサイズの用紙をさらに4つに区切った小さな絵で各名所を描いている。そこに描かれる人々の営みは実に生き生きとしていて素晴らしい。特に幕末各地で起きた大地震の現況を描いた銅版画は、大正時代の洋画家が関東大震災の様子を描いたもの、と言われても不思議ないほど、西洋画として確立している。

大久保一丘《真人図》
西洋の肖像画のような写実性が却って不思議な雰囲気を醸し出す。展示は東博蔵のものだったが、府中市美術館で見た記憶があり、調べてみたら各地に同じような絵が20点ほどあると言う。なぜ、同じような絵が多数描かれたのか、少年は誰なのか、そして幕末という時代にこれほどの高度な写実表現をどう学んだのか、多くの謎に包まれている作品だそうだ。
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春木南溟《虫合戦図》
列強の脅威が迫る現実から逃避する思いで描いたのか、ゆるい合戦図。足だけは細長い「屈強」に程遠い虫たちが、エノコログサを槍に見立てて戦っている。城門?もおとぎの国のような可愛さで、ゆるすぎ〜。初見ではなく、以前どこでみたのか…思い出せず。
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葛飾北斎《おしをくりはとうつうせんのづ》
北斎も洋風版画に挑戦。有名な《神奈川沖浪裏》の祖型。波頭、波飛沫はこの後さらに工夫されたわけね。
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第3章 幕末浮世絵の世界
葛飾北斎や歌川広重の登場により名所絵や花鳥画が流行、幕末には武者絵で名をあげた歌川国芳が、風刺のきいた戯画や、三枚続を活かした斬新な構図などで新機軸を打ち出し、弟子たちも活躍、歌川派は幕末浮世絵界の一大勢力となる。
横浜浮世絵と呼ばれる、開港した横浜の西洋風俗などを主題にした作品が、歌川派の絵師によって多数描かれた。

歌川国芳《観世音霊験 一ツ家の旧事》
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歌川国芳《誠忠義士肖像 大星由良之助良雄》
瞳にキャッチライトが入っているところが新しい。
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歌川芳艶の《鳥獣合戦》は、残っているのが稀な版下絵で、鷲と大蛇が激しく組み合っているのが大迫力だった。


第4章 激動期の絵師

菊池容斎《呂后斬戚夫人図》
渡辺省亭を門人にもつ容斎が、こんな激しく惨たらしい絵を描いていたなんて…絶句。静嘉堂文庫所蔵。
亡き高祖の愛妾戚夫人を憎んだ正妻の呂后は、戚夫人の両目を抉り、手足を斬り、人豚にして厠にさらした。その故事を、4場面描いているが、これがかなりエグい。
こういった残虐な絵が好まれたのは、激動の時代だった故か。月岡芳年の血みどろ絵も多数展示。
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柴田是真《雪中の鷲》
私の好きな柴田是真もこの時代の人。これも好きな絵。鷲に睨まれた狐かテンかの小動物がやむに止まれず水中に逃げる。松の木に降り積もった雪がザッと落ちる一瞬、緊迫した場面だが、小動物の尻尾と後ろ足がユーモラスで、こういったユーモアこそが柴田是真の真骨頂。
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柴田是真《貝図》
漆絵の掛け軸。千葉市美術館蔵。確か板橋美術館には同じような絵柄で屏風があった。美しい色漆で意匠的なデザイン、驚くことなかれ、キラキラ光る部分は螺鈿。
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河鍋暁斎《乗鶴お多福図》
美しい織柄入りの絹に描く。注文作品と思うが、とても目出たくて善き。
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河鍋暁斎《鍾馗二鬼図》
板橋美術館蔵。虎に乗った鍾馗様。鬼たちは慌てふためいて川に落ちる。その姿がとてもユーモラス。
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小林清親《御東景おも志路双六》
首だけ馬車に乗るろくろ首やお多福が重すぎて後ろにひっくり返る人力車など、新時代の世相を反映して面白い絵がずらり。
もちろん小林清親といえば光線画もあり、井上安治の版画とともに、光を意識した情緒あふれる作品が並ぶ。
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江戸から明治へ、この社会的な転換を区切りとして、かつては明治元年以前と以後の美術を切り離して語ることが通例だったが、近年では江戸と明治の連続性に重点を置くようになり、幕末明治期の絵師たちの再評価が進んでいるという。
文明開花で世の中がひっくり返る時代、美術の世界も独特で面白い時代だったのだなと改めて思う。

12月3日まで(展示替えあり)
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