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2021年09月09日20:41

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「気骨の判決」と「旅の源流」

 昨日も肌寒い雨、今日も同様、夕方まで雨が降り続き、昨日以上に寒い一日になった。セーターを着込んでいる。
 昨日の午後3時過ぎ、ラゾーナ川崎という大規模な複合商業施設の中にあるプラザソルという劇場で開演される芝居「気骨の判決」を観に行くため、横須賀線に乗った。ダイレクトに行くのなら午後5時に家を出ればいい。が、横浜駅で途中下車して珈琲豆を買いたいのと、川崎の街を小一時間くらい歩きたかったので、早めに出た。
 川崎駅に着いたのは午後4時半、開場は午後6時半なので時間はたっぷりある。あいにくの雨で止みそうになかった。京急川崎駅からすぐ南にはアーケード街が東西に長く伸びていて、かつては川崎の中心だった。たまに私は定期を利用して川崎駅で降り、怪しげなバーゲンをやっている又貸し店舗に入ったり、モアーズの中にあるブックオフに寄ったり、商店街の1つか2つ裏の昭和な飲み屋が多い通りをほっつき歩くことがあった。
 ラゾーナ川崎がオープンしたのは2006年。以来、川崎は南の旧市街がさびれ、北口の近代的な商業施設が街の中心になった。戦前からの大工業地帯、労働者の街から、新施設と新住民によるオシャレな都市に脱皮した。それがいいとか悪いとかの話ではない。日本中のどこもが、三菱だ三井だといったコンツェルンによる再開発によって、空間から人間臭さや熱気や二酸化炭素までもが浄化されている。
 商店街を30分くらい往復してから、かつやというトンカツチェーン店に入って、ソースカツ丼を食べた。まだ40分ほど時間はある。
 旧青線街(?)に向かって少し歩くことにした。かつて永渡元次郎さんが立ちんぼをしていた街、東海道線に乗っていると、ラブホテルの一群が見える一角。
 雨が降っていて寒い。寒々しいのは小さくて古い3〜4階建ての雑居ビルが丸ごと一棟、空き家状態という光景であったりする。1階のスナックは新型コロナ以前から廃業しているようだし、2階3階4階のフロアは明かり一つ灯っていない。
 わずか1年だが、大阪・京橋という繁華街に住んでいた。あの(下品な)大阪のなかでも最も庶民的な下町とされていて、ヤクザと小汚い商店と飲み屋と「文化住宅」が密集する、これぞオオサカ!だった。川崎駅からわずか6分や7分のところで昭和なアパートがあって、つい京橋を思い出してしまった。
 木造2階建てのオンボロアパートに惹かれる。
「編集工房ノア」という出版社が大阪にあって、そこから出た『旅の源流』を偶然買って読んだら、著者の柚木伸一さんというかたのプロフィール欄に住所が載っていた。都島区内代町……、当時の住まいから歩いて20分くらいの場所だった。ただ本を1冊読んだだけで、町歩きがてら柚木さんの住むアパートを訪ねてみたら運がいいことに彼はいらっしゃって、部屋の中に招き入れてくれたのである。思えば昭和はゆるい時代だったな。
 部屋には壁がなかった。周りが全て本棚だからだ。30歳以上も年下の若造に対して、柚木さんは決して威張ることなく、次から次へと自らの「思想の源流」について話をしてくださった。いかにも在野の哲人っぽくて、自分もこういう老人になるのがいいのかな、と思ったりもした。まさか自分が老人年齢に達してしまうとは(笑)。
 川崎の、駅から歩いて行けるエリアの、古いアパートに住んで、朽ちていくような終末を迎えたい、と思いながら、駅に引き返し、ラゾーナに入る前、息と雨で濡れそぼったマスクを交換してからプラザソルに入った。
 受付で主催者というか友人と会えたので、ちょっと渡したいものを手渡しすることが出来た。こういうところで会うと、なんとなく気まずいのはなぜなんだろう。きっと彼も同じだと思う、照れてたから。
 上演時間は2時間2分。舞台は昭和10年代。竹内一郎の芝居にしては、笑いもなく、歌の唱和もなく、効果音さえ最小だった。新国劇をもじるつもりはないのだが、「深刻劇」だった。テーマは「同調圧力」、「権力に媚びる」、「空気を読む」、「信義」、「誠実」、「祈りと希望」、この6つかな。順不同ではなく、この順番で流れは進行していた。
 21時過ぎ、終幕。
 川崎駅から、たぶん少しは空いているだろう京浜東北線に乗ったら、すぐに座れた。横浜へ出て、横須賀線に乗り換えたら、こちらも珍しく座れた。なのでずっと芝居の余韻に浸ることが出来た。
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