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2020年01月13日08:16

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本棚242『日経ポケット·ギャラリー 東山魁夷』東山魁夷(日本経済新聞出版社)

 鏑木清方の随筆集を読んだ時にも感じたことだが、美しい絵と巧みな文章を生み出す才、天は二物を与えることがある。清方の文章は詩情に溢れ、魁夷の文章は端正で理知的で、それぞれの絵とどこか似ているのも面白い。
 
 「人間の心の象徴としての風景」と魁夷が言うように、モデルとなる場所は信州や北欧など多様だけれど、典型的な名勝は描かれず、緑滴る森であっても静謐な湖であっても、どこにでも存在するような抽象化されたものになっている。だからこそ、観る者は自身の記憶や経験による心の風景をその絵の中に自由に見出すことができるのではないだろうか。

 唐招提寺の障壁画「濤声」は、何面もの襖に描かれた海から包み込むような潮騒が聴こえて来る。降りしきる雪の朝、一羽のきじ鳩がじっと枝に止まっている「白い朝」は、白と灰色だけの世界なのに、確かな生命の温もりが感じられる。一本の木のもとに散り敷いた黄葉の輝くような美しさを永遠に描きとどめた「行く秋」は、魁夷が寄せた文章と相まって光を放っている。

「秋深い林の中を落葉を踏んで歩く。楓の黄葉が地上に織り上げた金色のタペストリー。行く秋は淋しいと誰が言ったのか。私が見出したのは荘重で華麗な自然の生命の燃焼である。」
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