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2014年01月23日23:11

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これは凄い!『第六大陸』

・第六大陸 作:小川一水
山本弘の私小説SFに、自信作『神は沈黙せず』が本書とのコンペに敗れて星雲賞を逸した顛末が書かれていた。で、ずっと気になっていた。山本弘の「神」はかなりの力作で、受賞できなかったのが不思議だったし。本書を読んで納得した。これは負けても仕方がない。相手が悪かった。そう思わせるだけの傑作でした。

巨大レジャー企業「エデン」が、極限環境での建設に絶大な実績を誇る「御鳥羽総合建設」に月面での建築を依頼した。ロケット会社「天竜ギャラクシー」を加えた三社による前代未聞の民間宇宙開発プロジェクトがスタートする。

人物の造形が見事である。計画立案者は、「エデン」のお嬢様・妙だ。13歳の天才少女なんて普通は嫌味なだけだが、率直で裏表がないため、素直に声援を送りたくなる。主人公の建築技師・青峰との二人三脚ぶりが微笑ましい。懐の深い御鳥羽社長や宇宙への夢を抱いたまま大人になった「天竜ギャラクシー」の面々も魅力的だ。

月への輸送・現地での生活・工事現場などのディテールがしっかりとリアルに書きこまれており、ハードSFというより科学ノンフィクションのような説得力だ。予想外の事態が連続し、一歩間違うと死が待っている。宇宙の過酷な現実が胸に突き刺さる思いだ。それでも行きたい。行かねばならぬ。人間はそういうものだ。
「止まるな、行け、どこまでも」
ある主要人物のセリフだ。この言葉に本書の主題がすべて込められている。

作者のバランス感覚の見事さは、外国人の描き方に如実に表れる。中国の宇宙基地の有様など、「いかにも」という感じだ。宇宙を経験した者どうしに深い友情が生まれるという展開にも納得。NASAとは時に競合し時に助け合う。単純な敵味方ではない、深みのある大人の小説ですな。
何より楽しいのは、この計画が民間企業によって成されるということ。実際の話、国家(政府)なんか出てきたらロクなことにならないからな。妙の機転で、自分たちが日本国と無関係であることを証明するシーンがある。手を打って喜びました。妙ちゃん、最高!

まだまだ読みどころや感動ポイントは大量にある。月に作る建物の用途は?妙がこの計画を思いついた真の理由は?そして感激のラスト。ネタバレはしないので、どうかご自分で確かめてください。「絶対に読む価値あり」と断言しておきましょう。★★★★★
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