mixiユーザー(id:68108846)

2026年10月26日07:25

18 view

阿部正浩『仕事とリスクの経済学』(慶應義塾大学出版会)を読みました

阿部正浩『仕事とリスクの経済学』(慶應義塾大学出版会)を読みました。
著者は、中央大学教授であり、労働経済学がご専門だと記憶しています。
本書は、出版社から見て学術書と考えるべきですが、それほど難解な定量分析を全面に押し出しているわけでもなく、一般的に広く読みこなせる人が多いと私は考えています。ただ、少しタイトルが判りにくいのですが、個々人のキャリア構築に関する分析を展開しています。
冒頭第1章で、職業キャリアの構築に影響する要因を考えて、環境、資質、そして、運を上げています。ただ、最後の「運」は一般的な運の良し悪しというわけではなく、いわゆる世代効果と呼ばれる初職就職時の景気状態を指します。すなわち、初職に就職する際に景気がいいと、後々のキャリアで有利となり、逆は逆、ということが日本だけでなく、先進国で往々にして観察されますが、特に、日本ではこの世代効果が長い傾向があります。
そして、第2章では、ここ50年くらいの職業構成の変化を示してくれています。よく知られている通り、電話交換手という職業はほぼほぼなくなりましたし、逆に、コンピュータのプログラマは100年前には影も形もほとんどありませんでした。ただ、この章では単に職業というカテゴリーだけでなく、それぞれの職業におけるタスクについても考えています。本書では、それほど本格的には取り上げられていませんが、人工知能(AI)のタスク遂行能力を考える際には重要な論点となります。
その後、第3章から職業キャリアの構築を本格的に分析し、人生の進行とは少し順番が逆ですが、第3章で働き盛りのキャリア形成を転職市場から考え、第4章で学生の就活を分析して、よい初職につける条件を考え、第5章で主として女性の結婚と出産に際してのキャリア継続を分析し、第6章で結婚・出産しない、というか、独身女性のキャリア形成を考え、第7章で老後の生活とキャリアを分析し、最終章で結論を導いています。
詳細は読んでいただくのがベストですが、本書において分析・考察している職業キャリアのうち、どのような職業でも、また、どのような就職直後のタスクでも、男性で約3割、女性で約1割と、今も昔もそう大きな変化ないシェアを占める終身雇用、すなわち、50代後半の定年間際まで離職経験のないのがもっとも有利、という見方はそれほど大きな間違い、というか、大きな修正を迫られていはいない、というのが私の率直な印象です。
特に転職については、ほかの労働条件はともかく、お給料は平均的にはかなり下がる、すなわち、男性の平均年間収入で見て、離職経験ないなら615万円、離職を経験すると452万円と、離職経験者は終身雇用のレールに乗っている場合の約7割、という事実は本書でも何度か繰り返されています。
昭和的な見方、戦後高度成長期に確立した職業観はまだ一定の条件ながら生きているのかもしれません。もっとも、私自身が60歳の定年まで公務員でしたし、終身雇用に近いキャリアですので、そういったバイアスのかかった見方に陥っている可能性は否定しません。

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する