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2026年10月05日07:55

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本田恒平『非正規雇用の政治経済学』(ミネルヴァ書房)を読みました

本田恒平『非正規雇用の政治経済学』(ミネルヴァ書房)を読みました。
著者は、立教大学経済学部の助教です。15年ほど前に私が勤務していた労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究員のご経験もあるようです。ご専門は政治経済学、戦後労使関係、労働政策だそうです。
本書は出版社からして、基本的には学術書と考えるべきですが、小難しい計量分析をいっぱい収録しているわけではないですし、雇用や労働という身近なトピックですので、それほどハードルは高くないと考えられます。主として、タイトルの「政治経済学」を政治過程も含めた歴史、くらいに考えておけばいいような気がします。
まず、非正規雇用は、定義がそれなりに難しいと私は考えています。ですので、本書でも定義を明確に打ち出すことなく議論を始めています。私は、学生諸君に雇用や労働を教える際、逆に正規雇用を定義して、その正規雇用でない雇用を非正規雇用、と教えています。すなわち、正規雇用の要件は3点あり、(1) 無期限、(2) 直接、(3) フルタイム、となります。この3条件のうちのいずれかから外れるのが非正規雇用と考えられます。最初の「無期限」というのは、その昔の終身雇用のように死ぬまで、というわけではなく、定年までの雇用であって、この(1)から外れるのが有期雇用、3年とか5年とかの有期雇用、ということになります。(2)から外れるのが、本書で主として着目している派遣労働です。雇用されている会社で働くのではなく、別の企業に派遣されて働くわけです。(3)は、その昔からフルタイムならざるパートタイム雇用というのがいっぱいあったかと思います。今でもあります。
本書では、繰返しになりますが、主として派遣労働に着目します。労働者派遣法は1985年に制定され、翌1986年から施行されています。本書でも詳細に法改正が後づけられています。政府による無償の職業紹介、今のハローワークにおける職業紹介に加えて、営利事業としての職業紹介とともに労働者派遣が始まります。労働者派遣は、当初はいくつかのポジリスト、すなわち、ファイリングなどの労働者派遣を許可する職種を決めていましたが、徐々に規制緩和され、今ではネガリスト、すなわち、労働者派遣を禁止する職種を指定するようになっています。本書ではほぼほぼ無視しているのですが、私自身は2006年の製造業への派遣許可が大きかったと考えています。
その労働者派遣のバックグラウンドとして、当時の日経連による『新時代の「日本的経営」』について考えています。非正規雇用拡大の契機としての日経連批判がどこまで妥当か、という視点です。私も本書と同じ結論で、決して日経連が求めなくても、何らかの非正規雇用は「発明」されていただろうと考えています。まあ、例えが悪いですが、コロンブスが発見しなくても、いずれ米州大陸は発見されていただろう、ということです。
その上で、労働者派遣法の規制緩和の政治過程について、詳細に検討を加えています。このあたりは本書の最大の読ませどころですので、レビューなんぞで取り上げたりせず、お読みいただくのがベストだろうと思います。ただ、
注目すべきは、派遣労働は決して日本の労働調整に反するものではなかった、という点です。すなわち、特に米国の雇用慣行などと比較して、日本の雇用は企業業績に応じたボーナス制度の存在などにより賃金の調整が大きく、逆に、雇用者数の調整が緩やかである、という特徴を持っています。米国では雇用契約が3年とかに及ぶこともあっては賃金の硬直性が高く、逆に、レイオフなどの量的調整に頼る部分が大きいと考えられます。ですので、派遣労働は日本の高度成長期における雇用慣行を、特に、正規雇用で崩すことなく、維持することに貢献した、という視点です。
ただ、私のような雇用を重視するエコノミストからすれば、雇用される側の視点がいささか薄弱な気がします。本書でも指摘しているように、正規雇用を望みつつも不本意非正規に置かれている労働者は少なくありません。非正規雇用は正規雇用に比べて賃金が低い上に、雇用の安定性にも欠けるところがあり、二重の意味で正規雇用よりも不利な立場に置かれています。私も、すべての雇用者が正規雇用されるべきであるとまでは考えておらず、雇用者のサイドから見た柔軟な非正規雇用は一定認めつつも、全体として非正規雇用が減少する方向を目指し、少なくとも不本意非正規はなくなるような雇用・労働政策が必要だと考えています。

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