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2026年09月12日07:25

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マシュー・リチャードソン『スパイたちの遺灰』(ハーパーBOOKS)

マシュー・リチャードソン『スパイたちの遺灰』(ハーパーBOOKS)を読みました。
著者は、ウェストミンスター大学の研究員、スピーチライターだそうで、私の著者に関する理解はそれほどはかどっていません。本書の英語の原題は The Scarlet Papers であり、2023年の出版です。
英語の原題の "Scarlet" は色ではあるのですが、本書では人名です。その昔に、英国のMI6の凄腕スパイであり、MI6長官まで上り詰めようかという人物、という想定です。
この小説の舞台は主として英国であり、主人公はLSE、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの諜報史の研究者、准教授ですが、まだ終身在職権(テニュア)は持っていません。そういった冴えない准教授のマックス・アーチャーのところに、伝説のエージェントであるスカーレット・キング、繰返しになりますが、米ソ冷戦期の伝説の凄腕スパイであり、ロシア問題のエキスパートとしてMI6長官までも嘱望されていましたが、小説の舞台となる2010年には90代となっている女性スパイから手記の一部がコピーとして提示されます。
この女性スパイに関しては、今でも顔写真すら明らかではありません。そのスカーレット・キングからアーチャーに手記の一部のコピーが渡され、諜報史の専門家として中身を吟味するよう要請されます。すなわち、スカーレット・キングの諜報活動を記した手記を出版したいという意向です。
本書は文庫版ながら600ページを超えるボリュームであり、そのマックス・アーチャーや年老いたスカーレット・キング、ほかの登場人物などの活動を記した現在パートの部分と、主人公のアーチャー抜きで冷戦当時のスカーレット・キングの諜報活動を追った過去パートの部分が交互に記述されます。
加えて、現在パートでは、このスカーレット・キングの手記をめぐってMI5や英国と関係深いイスラエルやフランスの諜報機関が入り乱れます。さらに、現在パートでは、マックス・アーチャーの周囲の人物、離婚を進めている妻や父親などが、きわめてトリッキーな関係を見せます。
もちろん、スカーレット・キングの活動の過去パートでは米国の諜報機関も活動していたりしますし、キム・フィルビーなどの二重スパイも多数登場します。何せ、スパイ小説です。それも、ドンパチを見せ場とする007ジェームズ・ボンドのようなスパイではなく、ジョン・ル・カレに登場するような心理戦を主戦場とするスパイが多い印象です。
そもそも、スカーレット・キングはホンモノなのか、その手記はホンモノなのか、アーチャーの周囲の人々、スパイたちはどう動くのか、スパイ小説らしく、何回もちゃぶ台がひっくり返されます。ラストにはさらに大きなサプライズも用意されています。このあたりが帯に見える「ジェフリー・ディーヴァー絶賛!」につながるのだろうと思います。
ただ、読み方によってはスパイ小説である必要は必ずしもなく、スパイ小説の形を借りたエンタメ小説、として読む読者もいっぱいいそうな気がします。というのも、スパイ小説としては大きな疑問があり、現場のエージェントがスパイ組織のトップの候補の1人に目されることって、特に、英国ではありえないような気がします。日本でいえば、ノンキャリアの叩き上げの刑事が警視総監になるようなものではないか、という気がします。
そういった疑問を含めても、それでも、キャラや展開の面白い小説で、オススメです。

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