さかなクンが出演したTV番組『人生最高レストラン』について日記を書いた時、マイミクのユーミ・ザ・ヘラートさんが映画『さかなのこ』(2022年)について言及され、公開当時に見逃していたことを思い出した。女優のんが「ミー坊」という、さかなクンを思わせる男の子を演じていて、さかなクン自身も出演している珍しい映画だ。ユーミさんのお話を伺って、急に観てみたくなり、サブスクを当たってみるとNetflixで発見。
ミー坊(のん)の小学生時代も女の子(西村 瑞季)が演じていて、最初、「ミー坊は女の子」だと思って観ていたのだが、さにあらず。朝から晩まで魚のことで頭がいっぱいの、ちょっと風変わりな可愛い男の子だった。高校生からはミー坊を女優のんが演じたことで「ミー坊が周囲の同じ年頃の子ども達とはかなり違う、異色の存在」であることが一気に加速する。のんの中性的な雰囲気がミー坊の特異さをより際立たせているのは見事だ。キャスティングの妙だろう。ミー坊のエピソードの多くは、さかなクンの実際のエピソードである。ミー坊がさかなクンの半生をなぞりつつも、別人格のファンタジーである構成が巧い。
さかなクンが魚を好きになり、好奇心の赴くまま、魚の研究に邁進することができたのはお母さんの理解と協力があったからだった。本作では、ミー坊のお母さんミチコを井川遥が演じているが、おそらく、さかなクンのお母さんもこうだったのだろうという「良き理解者であり、息子のためには犠牲をいとわない協力者」としての姿を見てとることができる。他にも、学生時代からの友人役として、磯村勇斗、柳楽優弥、夏帆、岡山天音などが出演し、のん演じるミー坊を中心にほのぼのとした雰囲気を醸成している。別人格でありながら、ミー坊の姿にさかなクンが自然と重なるのだから愉快だ。ちなみに、さかなクンは「ギョギョおじさん」として登場し、子ども達からは近所に住む奇人変人として認識されている。原作はさかなクンの自叙伝『さかなクンの一魚一会 〜まいにち夢中な人生!〜』(2016年、講談社)だが、未読。
【物語】 ミー坊(のん)は海の近くのアパートで独り暮らしをしている魚類好きのタレントだ。朝早く起きて、ハコフグのデザインの特製ウエットスーツに身を包むと、港から漁船に乗ってTV局のクルー達とロケに向かう。船上に漁網を引き上げる漁師さんの背後から、ミー坊は獲れた魚の姿に興奮しながらカメラに向かってレポートをする。ロケのさなか、ミー坊は巨大な魚影を見つけ、船べりに駆け寄って海中に目をこらしていると、船の揺れでバランスを崩して海に落ちてしまう・・・。
小学生のミー坊は今日も母と兄スミオと三人で水族館見学。兄はとっくに飽きて、ベンチで横になり、居眠りしている。閉館時間に「蛍の光」が流れる中、「タコさんって可愛いし、かっこいいなぁ」とミー坊は水槽のタコを飽きもせず、眺めている。そこへ母ミチコがやって来て、売店で買って来た「魚貝の図鑑」をプレゼントしてくれた。「ミー坊、タコ以外にもお魚さんってたくさんいるのよ」「うん、どれも可愛いね」 ミー坊は図鑑を広げて、嬉しそうに微笑んだ。
ある日、ミチコは子ども部屋に掃除機をかけていると、ミー坊が描いたタコの絵を見つけると目を細めて眺め、額に入れて壁に飾った。その日の夕飯に母はタコの刺身、タコの炊き込みご飯、タコの酢の物を出す。ミー坊は「タコさんだ! 可愛いね!」と大喜び。兄スミオは「可愛いって、死んでるじゃん・・・」と呆れる。ミー坊は大喜びで食事をしながら、急に思い出して、壁の貼り紙に書いてあるメモの「タコのお刺身」に鉛筆で横線を入れた。ミチコが「あと、いくつ?」と尋ねると、ミー坊は「あと8個」と答えた。「あと8個だと、三日間あればできるかな」とミチコ。「三日かぁ・・・」父ジロウ(三宅弘城)と兄スミオは天を仰いで、うんざりした表情をした。ミチコはミー坊のために、ミー坊の希望するメニューを最優先していたのだ。
小学校の教室。同級生のヒヨ達男の子がみんなで遊んでいる中、ミー坊はひとり机に向かって一心にタコの絵を描いていた。そこへモモがやって来て、「今週のミー坊新聞を書いているの?」と尋ねると、ミー坊は嬉しそうに「うん、この間、水族館に行って見たの、タコさん」と答える。「あんた、タコにさん付けしてるの?」「かっこいいよね、タコさん」モモは呆れる。「普通に、キモいでしょ」ミー坊がモモと話しているのに気がついたヒヨらがミー坊に声をかけた。「おい、ミー坊、おまえ、女子となに話してるんだよ!」「タコさんの話だよ、あと海!」ヒヨ達男子は面白がって、「お前、モモコのこと好きなの?」と畳みかける。ミー坊は平然と「好きだよ」と答えたので、ヒヨ達も当のモモもびっくり。男子達は「お前、エロいな! エロい!」と馬鹿にするがミー坊は意味がわからない。「エロいって?」とミー坊に聞かれ、男子達は説明できず顔を見合わせるが、気を取り直し、みんなで手を叩きながら「エロス! エロス」と囃し立てた。他の男子達も騒ぎを聞きつけ、手を叩きながら「エロス! エロス!」と唱和しはじめる。意味を理解しないミー坊も喜んで手を叩き、唱和に加わった。
小学校からの帰り道。ミー坊は母にもらった魚貝図鑑を見ながら、家路についていた。後ろから同級生のヒヨが来て、「なんだよ、二宮金次郎気取りかよ」と声をかける。ミー坊は「気取ってないよ。ねえ、ヒヨ見て、このタコさん、かっこいいよ」と図鑑を広げて見せる。「なんだよ、お前、タコにさん付けやめろよ、相手、魚だぞ」とヒヨは呆れるが、「あぁ、本物のタコさん、触ってみたいなぁ〜」「だから、タコにさん付けすんなよ。なんで、タコはさん付けで俺のことは呼び捨てなんだよ」ヒヨは突っ込んだ。「お母さんが夏休みに海に連れて行ってくれるんだ、ヒヨも一緒に来ない?」「出ました、海ママ」とヒヨはうんざりした顔をするが、道の向こうに怪しげな人物が立って、こちらを見ていることに気づき、立ち止まった。長いコートを来て、ハコフグ帽子をかぶっている。近所の子ども達から「ギョギョおじさん」を呼ばれて恐れられている変なおじさん(さかなクン)がミー坊とヒヨの様子を興味津々でうかがっている。ヒヨはミー坊に「親指を隠せ、親の死に目に会えなくなるぞ」と言いながら、足早に歩きはじめた。「ギョギョ〜」とギョギョおじさんは二人に声をかける。「ギョッ、ギョッ、ギョッ〜!!」ギョギョおじさんはおかしな声をあげながら、ふたりのあとをついて来る。「き、君はお魚さんのこと、好きなんですか〜??」 ギョギョおじさんは走って彼らの前に立ちふさがった。ヒヨは「良い帽子ですね!」とギョギョおじさんのハコフグ帽子を褒めると、ミー坊と一緒に逃げ出した。ギョギョおじさんに遭遇したらハコフグ帽子を褒め、おじさんが喜んでいるうちに逃げる、というのが子ども達の常識だったからだ。逃げていくふたりの姿に向かって、ギョギョおじさんは寂しそうに大声で呼びかけた。「一緒にお魚さんの話をしようギョ〜」 ミー坊はギョギョおじさんとの出逢いがその後の人生を大きく変えることに、その時は気がついていなかったのだが・・・・。
魚の知識と画力には人並外れた能力を発揮するものの、普通の人の常識をもちあわせていないミー坊は社会に出て失敗の連続で仕事を転々と変わる。それでも、彼の個性や才能を理解する多くの善良な人々に助けられ、ミー坊の前に道が拓けていく奇跡には、ほっとさせられる。
◆関連日記 さかなクン『人生最高レストラン』
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◆関連日記 DQM2「 仲間にしてよ! 」
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