さかなクンを初めて認識したのは、彼が東京12チャンネルの番組『TVチャンピオン 第3回全国魚通選手権』(1993年)に参加した時からだから、もう30年以上経っている。当時は一般人のため、普通に本名:宮澤正幸で出場していたが、最初から今の「さかなクン」のキャラのままで、魚類の知識は圧倒的だった。何より驚いたのは、魚の姿かたちや名前、生態、歴史などはもちろん、味や、焼いた時の煙の色や臭いで「何の魚か」を回答できたことだ。本で読んだだけでは絶対に得られない「実地体験の蓄積」という点で、さかなクンは他の参加選手とはまるで異次元にいた。結局、彼は「魚通選手権」を5連覇し、殿堂入りする。「魚通選手権」の面白さは、彼のキャラの魅力、尋常ではない魚愛に負っていたといって過言ではない。さかなクンという希代の才能を発掘した「TVチャンピオン」の意義はとてつもなく大きいと思う。
私がさかなクンに惹かれるのは、決して万能ではないからだ。万能どころかむしろ不器用で、普通の人がもつ常識や学習能力が欠如している。熱帯魚ショップでアルバイトした時は魚を販売する時のビニール袋に空気を入れ過ぎて、袋を破裂させてしまう。スーパーの鮮魚売場では床を掃除する機械を暴走させた。水族館では水槽内の温度調整を間違え、ベテラン飼育員に「魚を殺す気か!」と激怒され、追い出されたらしい。機器の操作やPCの扱いには不慣れだとも聞く。彼ほどの天才でも、魚に関係する仕事ならなんでも立派にこなせるというわけではないことが新鮮な驚きだった。人には誰でも得手不得手がある。結局、色々な仕事を転々とするが、どれも失敗の連続でクビになり、「TVチャンピオン全国魚通選手権」で知己を得た大船の『すし処 川澄』の大将に「仕事がないんです」と相談。「じゃあ、明日からおいでよ」と大将に誘われ、寿司屋での修業がはじまった。番組では、修業時代のエピソードが彼の口から紹介されるが、いきなり寿司を握れるわけではない。当たり前に皿洗いからスタートするものの、根っからのおっちょこちょいなのだろう。毎日、お皿を割っていたそうだ。大将は彼の失敗を叱らず、「それでは握ってみるか」と寿司職人としての教育をはじめるが、何度やっても寿司ではなく、おにぎりにしてしまったという。大将はそれでも諦めず、「絵が上手いんだから、魚の絵を壁いっぱいに描いてよ。時給はちゃんと払うから」とお店の外観に絵を描くことを提案。その制作過程がTVのドキュメンタリー番組で紹介され、たまたま番組を観ていた現在の事務所の会長と社長から「うちに来ないか?」と誘われ、イラストレーターとして本格的に活動範囲を広げていく。
その後の彼の活躍は説明するまでもないだろう。2006年、東京海洋大学の客員准教授として招聘され(同大学の前身「東京水産大学」には入試で落ちている)、研究者としても活動を開始。絶滅したと思われていたクニマスの再発見に貢献し、魚類学者でもある当時の天皇陛下(現在の上皇陛下)は感謝の意を表されている。天皇陛下が「さかなクン」と個人名を挙げられたことをNHKが取り上げ、ニュース内で「さかなクン」と呼んだところ、「さかなクンに敬称をつけず呼び捨てにするのは失礼ではないか」とNHKに抗議が殺到。NHKはあわてて「さかなクンさん」と訂正謝罪する事態となる(もっとも、この抗議はジョークであり、NHKが律儀に訂正謝罪し、さらに笑いを誘った)。2012年には魚の魅力を伝える個性的な研究と啓蒙活動が評価され、「海洋立国推進功労者」として内閣総理大臣賞を受賞。2020年には水産資源について意見陳述するため国会に参考人招致されたが、「ハコフグの帽子はさかなクンの身体の一部であり、品位礼節を欠くものにはあたらない」と、トレードマークの帽子をかぶったまま国会での意見陳述を行うことが特例として認められている。
さて、さかなクンの『人生最高レストラン』である(2025年10月25日放映)。私は好きなタレントの放送回を繰り返し観るのが常で、さかなクンと国村準の回は何度も観ている。ふたりとも、「美味しいものの記憶」として挙げた内容が素晴らしい。國村隼は苦労した劇団時代の思い出から、紹介した三品全てが「安くて美味い」だった。大物芸能人としては極めて珍しいことだ。有名人著名人はまず間違いなく一品、二品は「高くて美味い」を選び、中には三品全て「高くて美味い」で揃えて来る。さかなクンの場合は、三品全てが魚、それも握り寿司で統一されていた。このセレクションには「さすが、さかなクン!」と感心してしまった。さかなクン、51歳。東京海洋大学名誉博士、同大学客員教授、魚類学者、タレント、イラストレーターとして今日も元気に活躍中の「すギョい人物」である。
ちなみに、MCの加藤浩次は独特のツッコミや混ぜっ返しでゲスト(今夜のごちそう様)の話の腰を折ってしまうことが常なのだが、さかなクンの留まることを知らない猛烈なトークとアクションに圧倒され、聞き役に徹しており、珍しく好印象だった。
1.「すし処 川澄」 飾り巻き寿司、カワハギの肝和え
鎌倉市大船(閉店) 現在、川澄氏は「GINZA ONODERA鮨アカデミー」講師
2.「KOBA」 豪快な握り寿司
フランス・パリ 旅行先で知り合ったラオス出身の寿司職人コバさんとの交流
壁とメニューにはさかなクンが描いた魚たちの絵がある
3.「鮨文」 江戸前穴子寿司(おまかせコース)
東京・豊洲市場6街区にある創業180年の老舗 店内にはさかなクンの絵が!
◆関連日記 國村準「人生最高レストラン」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1990391217&owner_id=6007866&from=list_diary_search
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