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2026年07月21日07:18

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塩野谷祐一『経済と倫理 増補新装版』(東京大学出版会)を読みました

塩野谷祐一『経済と倫理 増補新装版』(東京大学出版会)を読みました。
著者は、一橋大学名誉教授であり、ご専門は経済哲学です。すでに、2015年に亡くなっています。
本書は、副題としている「福祉国家の哲学」を体現するため、効率・正義・自由・卓越といった価値理念を手がかりに、経済と倫理を統合し福祉国家の制度を再構築することを試みています。その際、福祉国家とは資本主義・民主主義・社会保障の3層の公共的制度であって、経済・政治・社会の全領域における理念と制度の整合化を図ることが現代の社会科学者の実践的な課題である、としています。こういった考察を通じて人間の卓越と良き生の条件を探り、経済は何のためにあるのかという根源的な問いを投げかけています。そして、自由、真の自由とは、市場における自由と社会的な正義と政治的な平等を基礎として成り立つと強調しています。
さらに、豊かさと公正さを達成した社会は、さらに、卓越した社会を目指すとし、私自身はこの「卓越」について理解が進まなかったのですが、読み進むうちに、中国的、というか、日本も含めた東洋的な「徳」の世界であると感じています。西洋的な用語でいえば「美徳」となるのかもしれません。ただ、まあ、正しいかどうかはそれほど自信がありません。
私の感想としては、まず、経済学が科学であるからには価値判断から自由、価値判断をしない事実判断が重要、という点が緩やかに否定されている点が新鮮でした。私も授業で、特に経済学部以外の学部で講義する場合、例を出して説明すると、天文学で満月が好ましく新月は望ましくない、といった良し悪しの価値判断をしないように、経済学も価値判断からは距離を置く、と説明します。
すなわち、世間一般の理解のように、高所得が望ましくて低所得は望ましくない、とは考えずに事実として客観的な分析に努める、という意味です。ただ、経済学でも効率性を欠いた非効率は望ましくないと考えるわけですし、それだからこそ市場における資源配分を尊重するわけですので、本当に価値判断が排除されているかは疑わしいと私は考えています。
経済学というのは、いくぶんなりとも、ほかの学問・社会科学と同じで、格差の上の方の人々に奉仕する学問である点は否定できず、経済的に成功した人々、経済的成功を基盤に政治や社会で権力や権勢を持った人々に対して、そういった成功を後付けで合理化するという面があります。
それとは真逆に社会保障で成功しなかった人々に対する支援をしたり、経済社会的に許容しかねる格差を是正したりするための学問的あるいは理論的な基盤を提供しようとするわけです。
経済社会は何もせずに放っておくと、弱肉強食の世界になって権力者は法や社会的な秩序を無視して、やりたい放題に振る舞うことになりかねません。望ましいか望ましくないかの価値判断が権力者に委任されることになるわけです。そうならないために、こういった学問的な裏付けが必要になります。
本書は確かに難解ではありますが、決して理解が遠く及ばない内容ではありません。多くの方にオススメです。

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