朝宮運河『日本ホラー小説史』(平凡社新書)を読みました。
著者は、ホラー、怪談、怪奇幻想小説を専門とするライター、書評家だそうです。
本書は、戦後から現在までの80年間のホラー小説の歴史を後づけています。まあ、タイトル通りなわけです。序章として前史を取り上げ、日本の戦後史からはみ出す中世文学の「雨月物語」とか、あるいは、日本ならざる英語圏のホラー小説などを軽くおさらいした後、章別の構成は編年体となっています。すなわち、第1章で終戦直後の1950年くらいまで、第2章で高度成長期の1950-60年代、第3章が1960-70年代、第4章が黄金期の1980-90年代、第5章は停滞から令和のブームとなった2000年から2020年代、という時代区分です。
私自身はそれほど好んでホラー小説を読むわけではありませんが、ミステリやSFなどとともに、エンタメ小説のひとつのジャンルとしてホラー小説の読書を楽しんでいます。もうひとつは、子どもがホラー小説を好きでよく読んでいて、親として子どもの読んでいるホラー小説は十分把握し、教育上の悪影響が出ないようにすべき、と考えてせっせと読んでいたこともあります。そのきっかけは2010年の貴志祐介『悪の教典』ではなかったか、と記憶しています。
私の個人的な事情はともかく、やはり、日本のホラー小説、特に、戦後ホラー小説史で重要な人物は江戸川乱歩であったと確認できました。1948年雑誌『宝石』に掲載された江戸川乱歩の「怪談入門」と題するエッセイを本書でも取り上げています。日本以外では、ホラー小説の帝王ともいわれるスティーヴン・キングが歴史的にも重要な役割を果たしている点は衆目の一致するところです。
そして、本書でも日本ホラー小説の黄金期としている1980-90年代の金字塔は鈴木光司『リング』です。ただ、小説としてよりも映画としてヒットしたような気もします。「貞子」へと続くシリーズです。『リング』に続いて、1990年代半ばには瀬名秀明『パラサイト・イヴ』もスケールの大きな作品として、本書でも特筆されています。
最近時点では、いろいろとホラー小説も広がりを見せています。もちろん、本書でもホラー小説の隣接領域としてミステリやSFへの言及も少なくありません。停滞期ながら、21世紀では綾辻行人の『Another』のシリーズについても、映画とともに私も楽しみました。ホラー小説としては、奥様の小野不由美よりも綾辻行人の方を読んでいるかもしれません。
最近の注目点として、本書では創元ホラー長編賞を受賞した上條一輝『深淵のテレパス』について、超常現象を心霊調査チームに調査を依頼するという形で、単なる超常現象の描写に加えて、科学的な装いを持った新しいジャンルに踏み出した可能性を指摘しています。『深淵のテレパス』はもちろん、同じ作者の次作『ポルターガイストの囚人』も私は読みましたが、その科学的な裏付けめいた部分が強化されていると感じました。
最後に個人的な感想を1点、2015年第22回日本ホラー小説大賞受賞の『ぼぎわんが、来る』でデビューした澤村伊智が、一時の停滞期を脱する推進役として指摘されています。実は、このころに角川書店ではモニター制度をというのがあり、出版前のゲラ刷りの段階で一般読者に感想を聞くという制度がありました。この『ぼぎわんが、来る』の事前評価版に私は当選して読んで、もちろん、私なりの評価をフィードバックした記憶があります。何回か引越を繰り返して紛失していますが、あの事前評価版を良好な状態で保存しておけば、ひょっとしたら、いい「お宝」になっていたのかもしれない、と考えないでもありません。
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