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2026年02月06日08:37

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伊与原新『翠雨の人』(新潮社)を読みました。

伊与原新『翠雨の人』(新潮社)を読みました。
著者は、理学博士の学位を持つ小説家であり、『宙わたる教室』がNHKドラマになって大きな注目を集めて、『藍を継ぐ海』で第172回直木賞を受賞しています。科学的な見識に裏打ちされた小説で人気を集めています。私も『宙わたる教室』や『藍を継ぐ海』などを読んでいます。
本書は、50歳以下の女性科学者に贈られる猿橋賞にその名をとどめる猿橋勝子博士の伝記小説です。小説ですので、部分的にフィクションが混じっているかもしれませんが、重要な部分は事実に基づいているとされていますし、人名や学校名、機関名などは実名のようです。
物語は猿橋博士の女学校のころから始まり、女学校を卒業してから一度生命保険会社に就職しながら、帝国女子理科専門学校に入学し、実習で当時の中央気象台の三宅泰雄博士と出会い、気象庁気象研究所の研究員として働き始めます。
何といっても、第5福竜丸が被爆したビキニ環礁での水爆実験に端を発して、いわゆる「死の灰」による大気汚染や海洋汚染の研究に三宅博士とともに取り組んだ研究成果が有名です。当時副会長を務めていた平塚らいてうの勧めで女性国際民主連合の会合に出席したり、日本女性科学者の会の設立に加わったりといった核兵器に反対し民主的な科学の力を前面に押し出す活動にも焦点を当てられています。ただ、本書ではそのあたりはバランスに配慮し、ソ連の核実験からの放射能測定により左派から攻撃された点も言及されています。
そして、続く本書のハイライトは、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所のフォルサム博士と猿橋博士の放射能汚染の測定精度の相互検証です。そこで、猿橋博士の測定精度が上回って、核実験の汚染を小さく見せようとしていた米国の測定結果よりも10〜50倍も高いセシウム濃度の測定結果を示していた三宅・猿橋の測定の信頼性を大いに高めた点を本書でも特筆大書しています。
戦時中の暗い世相も、戦後の戦勝国である米国の傲慢さも、ともに科学の力で克服してきた猿橋博士の実像について判りやすい小説で示してくれています。なお、どうでもいいことながら、本書冒頭から最後の舞台回しに重要な役割を担っている奈良岡の生まれ故郷は関西の宇治だそうです。私と同じです。また、定年退職まで役所の研究機関で研究者をしていたのも私と同じです。同列に並べてしまうのは、きわめて心苦しいながら、いくつかの共通点を見出すことが出来たので、本書の読書に親しみを持てた気がします。

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