萩野覚・西村清彦・清水千弘『日本の経済社会統計』(有斐閣)を読みました。
著者は順に、麗澤大学教授、東京大学名誉教授・政策研究大学院大学名誉教授、一橋大学教授となっています。
少し前に、肥後雅博『経済統計への招待』(新世社)を取り上げてレビューしたのですが、それとはかなりカバレッジが異なっています。個別の公的統計をリストアップして取り上げているだけではなく、GDP統計を中心に最新の付加価値貿易とか、あるいは、GDPのサテライト勘定としてデジタル経済の指標やグリーン経済の把握などの最新分野にも目を配っています。
詳細な目次は出版社のサイトにあります。ただし、かなり数多くの統計や統計把握上の考え方を網羅しようと試みているだけに、やや「広く浅く」という方向に流れているところは見られます。ですので、出版社から考え合わせると学術書であろうという気がするものの、決して小難しい内容になっているわけではなく、大学生レベルでも十分読みこなせると思います。
歴史的、国際的な流れにも目が配られており、GDP統計であれば国連、国際収支(BOP)統計であれば国際通貨基金(IMF)、さらに、付加価値貿易指標であれば経済協力開発機構(OECD)などの国際機関との関係、さらに、統計が開始された歴史的経緯、それも国際的視野からの歴史も含めて、幅広い統計をカバーしている印象です。
加えて、GDP=SNA統計との関係で、従来の産業連関表(IO表)だけでなく、最新の供給使用表(SUT)も視野に入れて解説しています。繰返しになりますが、GDP=SNA統計を中心に据えつつ、サテライト勘定も含めて、マクロ経済全体を把握できる統計を解説しています。
最後に、本書に関連して、私のGDP統計に対する考えを示しておきたいと思います。すなわち、GDP統計のもっとも重要なポイントは雇用とかなり強くリンクしているところだと私は考えています。典型的には経済学のオークン法則があります。それを別にしても、例えば、よく批判されるのがアンペイドな家事労働がGDPには含まれていない点ですが、2つの家計の主婦ないし主夫がお互い別家計の家事労働をして賃金を受け取れば、やっている実態はほとんど変わりないのにGDPが増加する、という批判です。
両家計の主婦ないし主夫が別家計の家事労働をして賃金を得る場合、確かに、両家計の所得はキャンセルアウトされて実質的な影響を及ぼさないように見えますが、雇用は違います。所得は相殺されるとしても、両家計の主婦ないし主夫は明らかに労働市場に参入して雇用者となっていますので、雇用者がGDPの増加に従って増えている点は見逃すべきではありません。
大規模にそういった動きがあれば、おそらく、GDPが増加するだけではなく、失業率を計算する際に分子の失業者が変わらない一方で、分母の労働力人口だけ大きくなりますので、失業率は低下するのだろうと考えるべきです。従って、政府の税収に変化が生じますし、社会保障負担も増加することは当然です。
主婦ないし主夫が家事を相互に交換するとしても、決して、所得や何やが実質的に変わりないわけではないと考えるべきです。その意味で、アンペイドの家事労働とそれを家計で交換するのは同じではありません。それを把握できるGDP統計という指標、今もって十分な有効性があると私は考えています。
オマケで、本書第2章の参考文献に、私が役所に勤務していたころの論文「シェアリング・エコノミーのGDP統計における捕捉の現状」をリストアップしていただいております。
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