池本大輔『サッチャー』(中公新書)を読みました。
著者は、明治学院大学法学部教授です。タイトルはいうまでもなく英国の首相を務めたマーガレット・サッチャーであり、本書はマーガレット・サッチャーの伝記といえます。
もちろん、眼目は英国首相の地位にあった1979-90年ということになります。私自身はエコノミストですし、1980年代の英国のサッチャー首相、米国のレーガン大統領、あるいは、日本の中曽根総理なども含めて、いわゆる新自由主義的な経済政策を推進して格差や不平等を拡大させた政策の実行者とみなしていますが、もちろん、政治家ですので経済政策だけではなく政治や外交、ほかに重要な政策を実行しています。もちろん、経済政策をはじめとする政策とともに、政策決定や政策実行の政治的スタイルなども論じています。
私の興味ある範囲でいくつかの論点をピックアップすると、まず、経済政策については、通常の理解ではサッチャー政権では国営化されていた企業の民営化と規制緩和や労働組合運動への敵対的な姿勢が強調されるのですが、本書ではまず、資本移動の自由化を進めたのが不平等を拡大させて、同時に労働分配率を低下させ、ブルジョワジーというか資本家、企業寄りの政策であった点が強調されています。
う〜ん、確かにそういう面もありますが、ジャーナルにも採択されなかったIMFのワーキングペーパーなんかを根拠にしていて、やや疑問が残ります。やっぱり、国営企業の民営化、規制緩和による民間ビジネスの活動分野の拡大、さらに、本書でも強調している炭鉱ストに対する対応なんかがサッチャー政権の特徴ではなかったかという気がします。特に、炭鉱ストへの対応は、米国のレーガン政権における航空管制官の解雇と同様に大きな影響あった気がします。
経済政策以外では、核廃絶に対する考えが英国のサッチャー首相と米国のレーガン大統領で大きく異なっていた、とする指摘は、私は専門外でもあって、初めて知りました。すなわち、米国のレーガン大統領は、いわゆるスターウォーズ計画でもってして、当時のソ連の核兵器を無力化し、核兵器廃絶の目標を堅持していたのに対し、英国のサッチャー首相は当時の東西の通常兵力の差を埋めるためには核兵器が必要、との立場だったということです。なるほど、という気はします。
最後の最後に、現在の米国のトランプ政権が反エリートであって新自由主義から決別した、という見方がある一方で、トランプ政権の政策は新自由主義的であることは否定できない、とする見方もあります。私は圧倒的に後者の見方をしていますが、そういった米国だけでなく、米国や、もちろん、日本の政策動向を考えるうえでも参考になる読書でした。
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