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2025年09月18日05:25

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笹川諒歌集『眠りの市場にて』

2025年8月、書肆侃侃房刊。
『水の聖歌隊』(*)に続く笹川諒さんの第2歌集。
(*)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1978547148&owner_id=20556102

上記『水の聖歌隊』の紹介にて、「りんごの味を言葉で説明するのが難しいように、笹川さんの作品の良さを言葉で説明するのは難しい。吉本隆明のタームで言えば『指示表出』のベクトルは極力抑えられ、意識上の明示的な『意味』が伝わりにくいかたちで言葉が斡旋されている歌が多いのである」と書いたが、この第2歌集も引き続きそのモードの作品が収録されている。

『眠りの市場にて』という歌集タイトルは、よくその実相を伝えているタイトルだ。一読して誰もが思うだろうが、夢の歌が多い。と言うよりは、夢の界とうつつの界の境界を自在に行き来する作品が並んでいる。夢とうつつ、と明示的に言ってしまうよりは、のわ〜んとした味わいの歌の中に、あちらとこちらが漠と通底している…、と言うぐらいに紹介した方が良いかも知れない。

ただし、それは「眠りの海」とか「眠りの森」とかではなく、「市場」なのである。すなわち商品と貨幣の等価交換がなされる場であり、そこにはおのずと市民社会へ通じるような理(ことわり)が内在している。実際に、〈足に熱を感じて歩く川べりの等価交換ならば僕から〉という一首も収められている。

あえて若干の瑕疵かと思われた点を言えば、そのあちらとこちら、特にこちらを言うのにいささか理の具体が前面に出すぎているのでは? と感じた歌も散見された。が、それはこの作品の魅力を減じてしまうほどのものではない。

そのうえで、ふと思ったのだが、この先何十年になるのかわからぬが、笹川さんが齢を重ねて僕ぐらいの年齢になったとして、つまり相応に彼の身心もぼや〜んとしてきて、その頃にもなお今のモードの延長上の歌を詠み続けていたとしたら、「市場」の等価交換というよりは蕩尽とか贈与とかいうような世界が現れて、「のわ〜ん」の具合、「漠」の具合が大いに増すのではないだろうか。残念ながら僕はこの世にあってそれを読むことはできないが、できればあちらとこちらは通じていて、あちらからでもそれを読むことができたらいいなあ、などと勝手なことを考えたりしたのだった。

以下、『眠りの市場にて』より10首。辻󠄀和之歌集『夏の雪』の紹介(**)の時と同様、利いた風な“解説”は付けずに歌のみ引かせていただく。
(**)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1990186699&owner_id=20556102

 薄い緑の少年、川魚の暮らし、ありふれた門、という夢のメモ

 そして詩の中には光る犬がいてその前と後ろの二千年

 日々のことを留めるための詩を書けば実験都市に夕暮れは来る

 死ぬ夢を十年見ない 夢の方ではすでに死後なのかもしれず

 空間が丸椅子にささやいている ひかりを埋めて去る日のことを

 やわらかな冬のひかりよ日時計に一人称があればうれしい

 テレピン油という言葉の記された一枚のビラ 離人感とは

 これは日々、でも所詮日々 優美という言葉はブルグミュラーで知ったよ

 半分は死後の明るさ砂浜に永井陽子のうたを書きつつ

 笛と呼ぶかなしみに似た形象がそっとあなたの目の前にある

なお上記1首目、2首目は初出時に紹介していました(***)。
(***)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980954230&owner_id=20556102


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