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2024年04月18日04:08

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この映画の精神をなんとか存続させたいけど、“時代”はそれを許さないでしょう。クラウディオ・ロッシ・マッシミ監督「丘の上の本屋さん」(2021)。

イタリアのどこか、風光明媚な小さな町の丘の上にある、小さな本屋さんを舞台にした日常を淡々と綴る映画でした。本屋さんを営む老人リベロ(レモ・ジローネ)は、ブルキナファソから来た少年エシエン(ディディー・ローレンツ・チュンブ)が本に興味を持っていると知ると、来るたびに1冊ずつ本を貸します。

そんなことだけじゃ生活が成り立たないから、数は少ないけどお客の要望で本を取り寄せたりする。ときには“ゴミ箱から見つけた”という男から本を買い取ったりします。なにしろ独りなので、隣の食堂の店員ニコラ(コッラード・フォルトゥーナ)に助けられたりしている。そんな本屋さんの日常が淡々と描かれる映画でした。

エシエン少年がマンガ本から小説へと転じ、リベロもどんどん本を勧めていきます。その変移がなかなかでした。「ピノキオ」あたりは分かるけど、いくらなんでも「白鯨」は早すぎるだろ、なんてね。あるいは初版本を買い求める客がいたりして、学生時代に“背取り”をしていた僕には微笑ましく思えました。

そんな、かつて本屋さんの恩恵に浴した僕のような人間には、なかなかの小品でした。上映時間が80分ちょいしかないというところも“潔い”。結末が読める? いいじゃありませんか、予定調和でも。僕は今回、その作為に嫌味を感じませんでした。冒頭に“ユニセフに捧ぐ”と献辞が出るけど、気にしない気にしない。

もちろん見終わって、世界人権宣言の精神を観客個人に訴えるだけじゃダメだろ、と突っ込みたくはなりますが、それはまた別の話。そこから先は政治にかかわらないと。ということで、僕は自分でこんな本屋さんをやりたいなと思いました。もちろん現実的には不可能だし、僕の場合は本じゃなくて映画ですけどね。

現在池島ゆたか監督のご協力で、手持ちのDVDによる私的な鑑賞会をやっているわけです。これはこれでアネックスに発展中ですから継続し、さらにレコード会社時代の先輩たちとの鑑賞会を再開し始めました。ということで月に3回鑑賞会を行えば、ちょっとしたプライベート映画館ですわ。

そんな私的な夢を膨らませてくれる、なかなかの小品映画でした。こういう映画を大事にして、将来映画界を担う才能が生まれてくれると楽しいな。夢はどこまでも広がります。

なお本屋の壁に書いてある文字は次の通りでした。翻訳はグーグルさんです(笑)。
Ogni volta che un libro cambia proprietario, ogni volta che un nuovo sguardo ne sfiora le pagine, il suo sprito acquista forza.
                   "Lombra del vento" di Carlos Ruiz Zafon
本の所有者が変わるたび、新しい視線がそのページに触れるたび、その精神は力を増していく。
                  『風の影』 カルロス・ルイス・ザフォン
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