mixiユーザー(id:2615005)

2024年01月28日18:57

53 view

『砂の器』

『砂の器』(74) 監督:野村芳太郎
「八甲田山」と同様に橋本忍が製作と脚本を担当した作品だ。原作は松本清張。小説は犯罪の動機を突き止めることで、暗い日本の裏面史が浮き上がる社会派推理の傑作だ。映画は謎解きに加えて父と子の絆に注目し、重厚な大作として完成した。

操車場で初老の男が殺された。ベテラン警部(丹波哲郎)と若手刑事(森田健作)が、被害者の語った「カメダ」という言葉を手がかりに捜査を開始する。秋田から中国地方の僻村へ、更に被害者が訪れた伊勢へ。半世紀前の風景が旅情をかきたてる。地味だがじっくりした作りで、決して退屈ではない。余談だが和田誠が「冗長な文芸映画で、渥美清の出演で客席が僅かに沸いた」と書いていた。全然冗長じゃないけどな。人の感じ方は様々だ。
音楽家の我賀(加藤剛)が捜査線上に浮かび上がる。ここから話が一気に動き出す。見事な転調である。大臣の娘(山口果林)との婚約のため恋人のホステス(島田陽子)を捨てるのは有りがちな男のエゴだが、少年時代の悲惨な境遇を知れば、出世のための非情さも無理はないと思えてくる。殺人の動機が被害者の善意ゆえと言うのが、何とも切ない。クライマックスは我賀の晴れ舞台と凄惨な少年時代がオーバーラップして、最高の盛り上がりを見せる。本作のためにオリジナルの交響曲を作って、ピアニストがフルオーケストラをバックに演奏している。掛け声だけでなく、本気の大作なのだ。

日本映画の、というより橋本忍の底力を痛感した。
★★★★★
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年01月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   

最近の日記

もっと見る