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2023年08月14日16:57

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8/13 虫めづる日本の人々@サントリー美術館

私は「虫めづる」ではなく「虫厭ふ」人なのだが、本物以外は平気、むしろ、絵画や写真、標本などは好奇心の方が先に立ってガン見する方。
さて、本展は表題からして、大体が想像できる。
「虫めづる」とくれば、続くは「姫君」、堤中納言物語の中のひとつで、確か教科書にも出てきた。この姫君、大層変わり者で年頃の娘たちのように化粧もせず、気持ち悪い毛虫などを集めては観察しているのだが「そもそも蝶は、人々が厭う毛虫から変わったもの、物事の本質を見ないのは良くない」などとかなり鋭いことを言う。
それから、もう一つ思い浮かぶのが、アールヌーヴォーのガラス工芸作家エミール・ガレ。彼のガラス器は花々のモチーフと共にかなりリアルな虫が描かれていて、大いにジャポニズムの影響を受けていることは周知の事実、西洋にはそれまで花を鑑賞する文化はあっても虫をも愛でる文化がなかったようだ。

会場入り口は、虫籠に入って行くような設えになっており、秋の虫の音が聞こえる。いつもながら、サントリーの演出は上手い。外の暑さを一気に忘れる。それもそのはず、今回は作品保護のため特に冷房がきつい、ストールの貸し出しもあるが、上着持参をお勧めする。会場は暗く、作品リストの字は小さい。写真撮影は一切不可。細密に描かれている作品が多いので、単眼鏡は必携。展示物は、全体的に「地味」な印象だが、その分マニアックでもあり、楽しめた。虫だからといって、小さなお子様には不向き。

https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2023_3/
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日本美術の特色のひとつとして、草木花鳥が古来大事にされてきたことが挙げられます。そして、それらと比較すると小さな存在ではあるものの、虫もまた重要なモチーフでした。現代において昆虫と分類されるものだけでなく、例えば、蜘蛛、蛙、蛇などの、うごめく小さな生き物たちも虫として親しまれ、物語や和歌、様々な美術作品に登場します。特に蛍や、鈴虫などの鳴く虫は愛好され、深く物語と結びついていた様子が源氏絵や伊勢絵などから伝わってきます。また、草花や虫を描き吉祥を表す草虫図が中国からもたらされ、中世から長く日本で珍重され、多くの絵師たちにも影響を与えました。
江戸時代に入ってからは、本草学の進展や、古画学習、俳諧などの文芸の影響を受けて、草虫図という範疇には収まらない多彩な虫の絵が生み出されます。そして、江戸時代中期以降には、虫聴や蛍狩が娯楽として市井の人々に広まり、やがて江戸の年中行事となりました。この文化は近代、現代においても受け継がれています。日本の虫めづる文化は、長きにわたって育まれてきましたが、大衆化が進んだ江戸時代をピークのひとつとすることは出来るでしょう。
そこで、本展では特に江戸時代に焦点をあて、中世や近現代の「虫めづる日本の人々」の様相に触れつつ、虫と人との親密な関係を改めて見つめ直します。


第1章:虫めづる国へようこそ

住吉如慶《きりぎりす絵巻》
典型的な大和絵の絵巻ものだが、違っているのは衣装を身に纏っているのはすべて虫。美しい玉虫姫を巡って、蝉、きりぎりす、ひぐらしが恋の鞘当て。今回見た巻はこのシーン(3人のうちの誰かが、玉虫姫を垣間見て一目惚れした?)だったが、以前見たのは、玉虫姫がめでたく蝉を出産、生湯を使わしているシーンだったっけ。その発想がちょっと衝撃的。
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《天稚彦物語絵巻 下巻》
人間の娘と鬼の息子が恋仲になり、怒った鬼の父親が娘に無理難題を押し付ける。ムカデのいる部屋で7日間過ごせとか、千石の米を一粒残さず別の蔵に移せとか。これはそのシーン。蟻が手伝ってくれてクリア。
あれ?この話、アモルとプシュケの結婚にそっくり。アモルの母ヴィーナスが、プシュケの美しさに嫉妬して、混ざった雑穀を全部仕分けせよ、と難題を課す。この時も確か蟻さんが手伝ってくれたんじゃなかったっけ。東西そっくり神話、偶然なのか?
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住吉如慶《虫歌合絵巻》
金泥が引かれた料紙に、左右に和歌が一首ずつ書かれ、その評が次に載る。変わっているのは、詠み手が「左 けむし 右てふ」など全て虫。美しい草花と虫も描かれ、優美だ。どんな歌か、変体仮名が読めず悔しい。キャプションをつけて。
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そのほか、「伊勢物語」「源氏物語」などにも虫の声などが季節感や情緒を引立てる重要アイテムになっている。

第2章:生活の道具を彩る虫たち
蝶は「再生・復活」の象徴で、中国文化においても吉祥を表すので、調度品や装飾品にも良く用いられた。
赤い振袖、白綸子の打ち掛け模様は、酒器につける「熨斗蝶」おめでたい文様だ。
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蜘蛛は、恋人が来る吉祥であったが、蜘蛛と馬の組み合わせとなると、浮気男を恨む和歌が連想されたとのこと。知らなかったのは、薩摩切子の器の底の放射線状の紋様は蜘蛛の巣だそうだ。
蜻蛉は、攻撃的な性格から、武人に好まれたらしい。なるほど、今度東博に行った時にでも刀装具を見てみよう。

第3章:草と虫の楽園 草虫図の受容について
中国では、もともといろいろな草虫にそれぞれ立身出世や子孫繁栄などの意味を持たせ吉祥画としていたが、多くの鳥獣草木の名を知ることは知識を増やすことと「論語」にあるため、奨励され、流行った。その中心地は毘陵(現在の江蘇省常州)。新知識。
伝趙昌《竹虫図》
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第4章:虫と暮らす江戸の人々
虫への情緒的関心は、宮廷から江戸時代には市井に広まる。虫聴(むしきき)や蛍狩が盛んに行われた。6月上旬には虫売りも登場。買った虫たちはお盆に放す。命あるものを大事にする、なんかいい風習だ。
蛍狩は昭和の時代河川汚染が深刻になって、むしろ環境再生のために蛍狩が再流行したような気がする。
クワガタ、カブトムシは昭和から今に至るまで根強い人気だが、江戸時代はどうだったのだろう。あまり出てこないようだ。

喜多川歌麿《夏姿美人図》
うちわの上にあるのが蛍用の籠。光がよく見えるように周りを黒い紙で覆っている。
「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」
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三代目歌川豊国(国貞)《夜商内夏撰 虫売り》
竹ひごや猫足付きのものなど虫籠にも凝る。《夜商内》とあるから、夜に、鈴虫松虫など鳴く声や光る蛍を売り歩いていたのか。風流。
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三代目歌川豊国(国貞)《蛍狩當風俗》
人気役者の蛍狩。愛染めの浴衣も粋。
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第5章:展開する江戸時代の草虫図 見つめる、知る、喜び

中国発祥の「草虫図」も、江戸徳川吉宗の時代に博物図譜制作奨励が起こり、事細かな観察と記録がなされて発展。若冲や抱一、其一など人気絵師も精緻でありながら芸術性高い作品を作る。

喜多川歌麿《画中虫撰》
狂歌絵本の白眉と言われる。雲母摺が美しい。
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谷文晁《鼓草に蝶》
鼓草はたんぽぽのこと。アゲハ蝶のグラデーションが綺麗。たんぽぽの綿毛は銀。
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松本交山《百蝶図》
中国に原本があるが、それよりも蝶の色が鮮やか。三岸好太郎の海を渡る蝶の絵を思い出すが、波間から湧き出るような蝶の群舞はシュール。
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伊藤若冲《素絢譜》
《玄圃瑤華》と同じ拓版画。きりぎりすの背ではなく腹を見せるところが若冲らしさ。
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伊藤若冲《菜蟲譜》
これは2016年の若冲展でドーンと見た記憶がある。今回のメインビジュアルともなっているが、やはり流石の若冲だ。何がって、デフォルメして描いてあるようでいながら、虫の細かなところ〜たとえば足に生えている繊毛のようなものもきっちり省かず描いてあり、尚且つ、なぜかみな「表情」がある。昔は、虫の部類にいれらえていたトカゲもいい味を出している。見ていて飽きない楽しさだ。
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松本奉時《蝦蟇図》
蛙もまた虫の部類にいれられていたようだが、禅画のような剽軽さ。
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鈴木其一《蝶に芍薬図》
ふわっと描いた花びらに、同じくふわっと描いたアゲハ蝶の羽、この角の濃淡が羽らしい質感を出していて唸る。
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鈴木其一《雨中菜花楓図》
春雨に打たれる菜花、葉の裏で紋白蝶が静かに雨宿り。
にわか雨が紅葉を散らす、今にも吹き飛ばされそうな蓑虫。
春と秋の雨を対比させた2幅のようで、実は小さな虫に惜しみない愛情を注いでいる。これぞ、虫めづる江戸っ子其一。
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第6章:これからも見つめ続ける 受け継がれる虫めづる精神

鈴木華邨《IMAGES JAPONAISES(日本の面影)》
海外に日本を紹介した「縮緬本」と言われるものだが、これを描いたのが鈴木華邨!まさかここでこの名前に会えるとは。鈴木華邨は、日本ではほぼ忘れられた画家だが、小原古邨にも大きく影響を与え、ヨーロッパではその花鳥画は高く評価されているとかで、近年関西圏で展覧会があり、気になっていたのだ。いつかまとまってみたいなぁ。
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前後期入れ替え、細かな場面替えあり、前期は8月21日まで。
会期は、9月18日まで。
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