4月5月の展覧会の中で最も楽しみにしていた展覧会。やっと東京に巡回してきた。大阪の日本画はあまり見る機会がなく、2012年府中市美「三都画家くらべ」や2022年泉屋「日本画トライアングル」で初めて知った名前も絵も新鮮だった。今回は前後期大きく展示替えがある。両方行きたい。
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202304_oosaka.html
商工業都市として発展してきた大阪は、東京や京都とは異なる独自の文化圏を形成し、個性的で優れた美術作品を生み出してきました。市民文化に支えられた近代大阪の美術は、江戸時代からの流れをくみつつ、伝統にとらわれない自由闊達な表現を花開かせました。
本展には、妖艶で頽廃的な作風で人気を博し、「悪魔派」と揶揄された北野恒富や、大阪における女性画家の先駆者で上村松園とも並び称された島成園をはじめ、明治から昭和に至る近代大阪で活躍した、50名以上の才能あふれる画家たちが集結します。東京や京都の画壇の陰に隠れて、その独自性が見えづらかった大阪の日本画に関する史上初めての大規模展覧会といえるでしょう。
第1章 ひとを描く―北野恒富とその門下
第2章 文化を描く―菅楯彦、生田花朝
第3章 新たなる山水を描く―矢野橋村と新南画
第4章 文人画−街に息づく中国趣味
第5章 船場(せんば)派−商家の床の間を飾る画
第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍
東京会場は、会場の都合上、1章・4章・5章・3章・2章・6章の順で展示だった。
第1章 ひとを描く―北野恒富とその門下
北野恒富《摘草》
妖艶で退廃的な作風の北野恒富も、こんな繊細でリアルな写実画を描いていたんだ。これはこれでまたいい。
北野恒富《風》
突風に着物の裾が煽られ、慌てて手で押さえるが、白いふくらはぎが見えてしまうんというのは浮世絵の美人画の定番でもあるが、恒富らしい描き方。頭巾のドレープが金泥で描かれているのが効いている。
北野恒富《思出》
画像だとよくわからないが、右手で指折り数えている。一体何を数えているのかしら。愛しい人に会えるまでの日にち、それとも、愛しい人に最後に会ったその日から今日までの日にち…?
北野恒富《淀君》
これは、「あやしい絵」展にも出ていた醍醐の桜の淀君。意志の強うそうなオバサン。
北野恒富《護花鈴》
「さかれい」と読む。小鳥が花を散らさないように梢につける鈴のこと。こちらも醍醐の花見の淀君。こちらの淀君は若くて色っぽい。でもやっぱり勝気そうな顔をしている。
北野恒富《宝恵籠》
「ほえかご」と読む。十日戎の籠行列のことと聞く。赤と白がくっきり、華やかな絵だと思っていたが、大阪で見たマイミクさんが着物の質感がすごいと言っていたので、近寄れるだけ寄って見たら驚愕。友禅の着物、半襟の刺繍、縮緬の帯の質感が見事なの。画像だと潰れてしまって残念。
北野恒富《いとさんこいさん》
このタイトルも関西っぽいなぁ。時間が足りなくなった京セラ美術館で「これだけは!」と駆け足で見たこの作品と再会、感無量。優しく微笑んでいるのがいとさん、ちょっとおきゃんなのがこいさんかな。
木谷千種《芳澤あやめ》
12歳で単身渡米し、帰国後は北野恒富、野田九浦、菊池契月に師事。夫は浄瑠璃研究家だという。芳澤あやめは歌舞伎役者女形。
島成園《舞妓之図》
北野恒富が作った画塾「白耀社」の門下生。白耀社は、共学でリベラルであったという。
京都の上村松園、東京の池田蕉園と共に「三都の三園」と言われたのは有名。こよりを作る舞妓さんの可愛らしさ。
中村貞以《失題》
フライヤーで気になっていた作品。画面いっぱいに円を描くような構成。目元は上瞼に赤、下瞼に青が入り、肌は抜けるように白く、乱れ髪が色っぽい。金の蝙蝠柄の朱色の着物も鮮やか。
若い時の仕事で手に大火傷を負い、筆を両手で挟んで描いたということに驚き。そのことを横山大観に大いに励まされて、感激し、生涯大観を尊敬したという。
樋口富麻呂、辻富芳もはじめて。
第4章 文人画−街に息づく中国趣味
田能村直入《花鳥画》
田能村竹田の養嗣子。美しい
森琴石《獨樂園図》
名前に見覚え、、、そう、泉屋博古館東京で。のんびりした青緑山水図。
姫島竹外《竹林七賢》
大阪画壇の重鎮。人物画が得意
そのほか、橋本青江、河邊青蘭、田結荘千里、村田香谷、波多野華涯、水田竹圃も初めまして。
第5章 船場(せんば)派−商家の床の間を飾る画
船場では、花鳥画、故事人物画、大阪名所絵など、商家の床間を飾るために、あっさり、洗練の作風で描かれたものが求められた。季節によって架け替えも行うので、画家にはパトロンがつき、従って、文展なのどの公募展に出さない画家も増えた。
森一鳳《藻狩舟》
森徹山養子。抒情的で、軽妙洒脱。「もかる」→「儲かる」一方(一鳳)と縁起が良く好まれたという。(意外にも2020年千葉市美で象の絵を見ている)
上田耕甫《虎図》
応挙そっくりの虎。人気があったのかな。自己主張しないのが「船場派」
中川和堂ほか《鐘美幀》
初夏の爽やかさが伝わる。
渡辺祥益《京洛真景図》
躑躅に小鳥、その小鳥がとても可愛い。
深田直城《糸桜猿猴》
水面に落ちた花びらを掴もうと、手と足を長く伸ばす2匹の猿。禅画であれば、掴もうとするのは水面に映った月であるが、船場派は風流にして花びら。画像が小さくてわかりづらいが余白を大きくとった美しい絵だった。
深田直城の作品は、花鳥図も抒情的で、泉屋博古館で一目見て好きになった。
平井直水《梅花孔雀図》
孔雀を得意とした画家。背景を淡くして、とても上品な作品。岡本秋暉とはまた違った味わい。
武部白鳳《浪華旧名勝図》
大阪の歌舞伎小屋といえば、大阪松竹座?
武部白鳳の絵は、ふわっと柔らかくて《泊船図》もよかった。
そのほか、西山芳園・完瑛、庭山耕園、須磨対水。五井金水など初見。
第3章 新たなる山水を描く―矢野橋村と新南画
もともと大阪は中国文化の素地があったが、日本風土に基づく南画を作ろうというのが新南画。
矢野橋村《湖山幽嵒》(こざんゆうがん)
矢野橋村《峠道》
独特な近景・中景・遠景の距離感と大胆な構図で幻怪な雰囲気。よく見ると細かい点描。
甥の矢野鉄山の《秋意幽遠》も幻想的でメルヘン。新南画、一度見たら忘れられない。
第2章 文化を描く―菅楯彦、生田花朝
古き良き大阪庶民の生活を軽妙洒脱、人情味あふれる温かい絵を描いた菅盾彦。
菅楯彦《版都四つ橋》
豊かな色彩感覚で、同時代の風俗を軽やかに、ユーモラスに描いた生田花朝。明るく楽しい絵に魅了された。
生田花朝《四天王寺聖霊会図》
生田花朝《だいがく》生根神社の夏祭「台楽(台額)」
生田花朝《天神祭》
35祭でデビューし、帝展初入選、父から8畳の画質を与えられ嬉しくて描いた《浪速天神祭》(所在不明)が帝展特選に。以降人気があって何枚も描く。
第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍
上島鳳山《緑陰美人遊興之図》
泉屋で見た《十二ヶ月美人図》もよかったが、この色調も素晴らしい。鞦韆(ぶらんこ)遊びが楽しそう。まるで三美神のよう。
野田九浦《天草四郎》
え?野田九浦って、東京出身の画家だよね。2022年吉祥寺美術館「野田九浦展」は記憶に新しい。↓
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1982334769&owner_id=2083345
そうだった、大阪に移住して、北野恒富と大正美術会を結成して大阪画壇の発展にも寄与し、多くの弟子を育てたんだった。
山口草平《人形の楽屋》
出番を待つ文楽人形の薄暗い楽屋。人形なのに緊張が伝わる。
中村貞以《朝》
それぞれが背を向けての朝の身繕い。暖色の着物と寒色の着物、屈んだ女と立つ女、対比がいい。仲を取り持つ朝顔が涼しげ。
幸松春浦《魚遊》
水中に泳ぐ魚を真上からとらえた絵は珍しい。川底の石に魚の影が映り涼やか。
島成園《祭のよそおい》
日経トレンディの1月増刊号付録のカレンダーでずっと眺めていた作品。上手いなぁ、と思う。3人の女の子は綺麗に着飾っているけれど、ポツンと離れた女の子はいつもと同じ着物、素足に草履だ。髪に野菊の花をつけてもらったけれど、やっぱり1人違うのは寂しい…親の貧富の差が子供の世界にも反映、切なくなる。でも、着飾った女の子たちだって、きっと最初ははしゃいでいただろうけれど、振袖や履き慣れない足袋やぽっくりが窮屈になってきたみたい。子供の屈託のなさがいいなぁ。21歳時の作品!
木谷千種《浄瑠璃船》
川遊びの絵は、鏑木清方でもあったので東西何処も同じなのね。こちらは濁った色調がしっとりした味わい。
三露千鈴《秋の一日》
上村松園の重文《母子》を思い起こされるが、母は後ろ姿で子を微笑んで見つめ、子は母の肩をしっかと掴んでいる様が可愛らしい。手前に芙蓉?の花と葉がかぶさっている様も美しくうっとり。
木谷千種に入門したが、22歳で病没とは残念。
高橋成薇《秋立つ》
木槿?の花の淡い背景に、ハッとするような朱の着物が、浮き立って美しい絵。裾のつばめも本当に飛んでいるよう。島成園の弟子で、のちに中村貞以と結婚して筆を折る。
そのほか、久保井翠桐、上田南嶺、松浦舞雪、鈴木淡園、などが描いた鴻池家旧蔵の舞扇や御船綱手、池田遙邨など初見の名ばかり。
橋本花乃、星加雪乃、原田千里、別役月乃、吉岡美枝などは皆女流画家、東京・京都に比べて偏見少なく女性も活躍できたのかな。《女四人会》は生意気だと揶揄されたらしいけれど。
大阪中之島美術館では12月23日から2月25日まで「決定版!女性画家たちの大阪」展があるらしい。東京にも来てほしいわ。
6月11日まで(5月16日より後期展示)
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