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2021年12月10日06:59

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あばらや

　　　　　あばらや　　　　　　　　　　　　　斎藤　寛

水無月のわたしを吸ひぬ南口地階へ向かふひとのうなじは

そのかみの春の小川を偲びつつさみづは混凝土(コンクリート)を濡らす

いつはりの無き旗なりき突き出さるる握りこぶしの組合の旗

「出来事の記述」をめぐり帰路車中なほ論じ合ひにき哲学の夏

歌と旗消してしづもる宙空に誰濡らすなき雨音まろし

懸想文にはあらねどもそれとなく一首を置きぬ小(ち)さき余白に

出来る人　そいつを巧く使ふ人　党本部ビル上空薄暮

「長い長い嵐のやうな拍手」です。浴びてゐるのは、ほらね、あいつら

「皆さまの御理解御協力を」だと　理解しません　協力しません

自己肯定したし、したし、したし　つつましく書かれしメールのその行間は

「了解」のみのメールに惑ふ　行間を読むには行と行とが要るを

洞ふたつ弥生まひるに向き合ひき触れず語らず泣かず別れき

あらくさの最中鎖(さ)されし廃屋(あばらや)に何おはすらむ夜ごと気配す

きざはしの途上むくろとなり果てし蝶一頭を踏まずのぼりぬ

「帰宅してもう一度脱ぐ」と詠むうたに呼び覚まさるるとほい水無月

（「舟」39号より転載）

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